へなちょこセリオものがたり

その60「あーる・たいぷ」








 ぴきゅきゅきゅん……ずががっ!

「あちゃぁ〜……またやられちまったぜ」

 俺がゲームのコントローラーを投げ捨てると、少し離れて編み物をしていた
セリオが口を開く。

「ふふふ……子供みたいですね」

「ふん、ふん、ふふぅ〜ん……わんこですぅ〜♪」

 ……ちなみにマルチは、俺のすぐ後ろに寝そべってお絵描きしている。
 クレヨン握って実に楽しそうなところを見ると、少し変な気分になってくる
こともないわけでもないが。

 今日はゆっくりテレビゲームをプレイしている俺。
 随分前にゲーセンで人気だったシューティングゲームなのだが、ついこの間
家庭用ゲーム機にも移植されていることを知り、慌ててゲットしてきたものだ。

「子供じゃ、ここまで進みはしないだろうよ」

 一応、ラス面までは進んで来たが。
 そこのボス敵が3つに分離する奴でさぁ……その動きに翻弄されてしまって
すでに何機も自機を失ってしまっている。

 あ、ちなみにこのゲームは1・2の2本立てに分かれて発売されている。
 1本にはアーケード版は丸々収まらなかった為の、苦肉の策という噂もある。

 ったく、何て難しいんだ。
 まぁ……あまりに簡単過ぎても、やっててつまんないけどな。

「そこではですね、前もってフォースを後ろ側に付け替えておくのがポイント
なのデス」

「……おおっ! それだっ! 待ってろよ分離野郎っ!」

 確か正式名称があったと思ったが、そんなのは忘れた。

「波動砲を上手く使えば、楽に倒せマス」

「おお、3つ目を倒す手さえわかれば楽勝だぜ」

 ぴきょん、ぴきょん……。 

「うらうら、対空レーザーじゃっ! ……って、ああっ! 何でそんなトコに
対地レーザーがぁっ……」

 画面を見せられないのが残念だが……俺は今、ものすごくホットな戦いぶり
をセリオに見せていた。
 敵の弾をかいくぐりつつ、パワーアップしている自機の攻撃を当てていく。

 が、丁度そこにパワーダウン・アイテムと名高い、黄色いアイテムが……。
 それまではイキのよさそうな螺旋を描いていたレーザーが、突然黄土色した
キャベツみたいな塊の弾(でもレーザーらしい)に変わってしまう。
 くそう、反射レーザーならまだしも……。

「くすくすくす……役立たずのかぼちゃレーザーなど……」

「かぼちゃって言うなぁ!」

 くそっ、セリオの言葉を一々聞いてたらゲームにならないぜ。
 っていうか、少しマジにゲームに専念するぞ……!






 ……とんとん。

 ぴきゅん、ぴきゅん……。

 俺がいい調子でゲームを進めて行くと、誰かが不意に俺の肩を突っつく。

 ……とととん、とん。

「……何だよ、後にしてくれ」

 ぴきゅきゅきゅきゅん……。

 ……とんとんとんとん。

 ぴきゅきゅ……ずがしゅ!

「あああっ! もう少しだったのにぃ!」

 せ、折角雪辱戦に望めるところだったのに……。
 いいところで邪魔するなよなぁ。

「だぁぁぁぁっ、畜生ぅぅ!! 何なんだよっ!?」

 ……と。
 俺がコントローラーを床に置きつつ、振り向くと。

 さっきのまま、俺の真後ろでお絵描きしているマルチと。
 さっきいた場所より、更に俺から離れた場所で編み物しているセリオがいた。

 ……どう考えても、セリオの手は俺には届かないように思える。

「ひっ……」

 いきなり傍で怒鳴られ、怯えているマルチ。

「あ……ごめんな、マルチ。怒鳴るつもりはなかったんだよ」

「うっ、うっ、ううっ……こあいですぅ〜……」

「ごめんな、マルチ」

 早くも涙ぐんでいるマルチを抱き寄せ、必死で慰めながら。
 ちょっと、考え事。

 マルチの方が近くにはいたが。
 無理に離れているセリオの方が怪しい……っていうか、決定。
 マルチが俺に抱きしめられているのを見て羨ましそうな顔してるのが、その
証拠だ。

「もう、マルチがいいところで呼ぶからだぞ? そんなに急ぎの用があったの
かぁ?」

 なでなでなでぇ〜……。

「はう? わ、私は……」

 覚えのないことを言われ、マルチは戸惑う。
 この辺を見ただけでも、マルチが犯人ではないとわかる。

「いいって、いいって。誰でもあんな悪戯はしてみたくなるもんだ。俺だって
昔はよくやったもんだ」

 なでなでなで……。

「あ、あうう……」

「……なぁ、セリオ?」

 俺は、ここぞとばかりに首をぐりんと回し。
 見下ろすように、少し冷たい目で。

 びくっっ。

 ほら、大当たりだ(笑)。

「なっ……何を根拠に私が犯人だと!?」

「誰もそんなこと言ってないのに犯人がどうとか言う辺り」

 その俺の言葉に、セリオはひどく傷付いたのか。
 少しの間俯いて、再び顔を上げた時には……その目には、涙を湛えていた。

「そっ……そんなっ! 浩之さんは、私がそんな悪戯をするとでもお思いなの
ですか!?」

 きらーんっ☆(←涙が光った)

 ……はっ!?
 こ、この澄んだセリオの瞳……俺って奴は、単なる状況証拠だけで決め付け
ちまったのか!?
 ちゃんと調べもしないでセリオを犯人だと決め付けて……セリオ、さぞかし
傷付いただろうな……。






「……でも、お前だろ?」

「……そうデス」

 ぺこり。

 あっさりと頭を下げるセリオ。
 軽く袖口で涙を拭いたら、けろっとしてやがんの。

「ったく……もう少しで奴を沈められるトコだったのにさぁ……」 

「で、ですが」

「ん?」

「……ゲームばかりやっていて、私達を構ってくれないんですから……」

「…………」

 俺はちょっとの間、言葉を失ってしまった。

「だ……だって、編み物とかお絵描きとか……」

「浩之さんの邪魔をしないように、我慢してたんですぅ」

 ちょっと不満そうに。
 でも、俺の腕の中だからか……嬉しそうな笑顔で言うマルチ。

「……そうだな、悪かったよ」

「で、では……?」

 叱られるものと思っていたのか、セリオの顔に笑顔が広がり。

「ああ。これから構いまくってやるぞぉ〜」

「やんやん、ですぅ〜♪」

 ぱっと俺の腕から逃れ、居間を後にするマルチ。
 セリオもそれに合わせるようにして、居間から出て行った。

 2人とも、いかにも『捕まえてくださいねっ☆』と言わんばかりの笑顔で。

「よぉし……覚悟しろよぉ〜っ!」

 俺は一声叫び、逃げる2人の後を追うのであった。






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