へなちょこセリオものがたり

その６５「愛だの恋だの」

「お前達、最近燃えているか？」

「「……はい？」」












「感動もなしに、ただ毎日を怠惰に過ごしていてはいけないぞ」

「浩之さん、何か悪いものでも……？」

「あうう……やっぱり昨夜のお魚、もう少し火を通すべきだったんですっ！」

「あ、アレはマルチさんが『これくらいでもういいですぅ』と……」

「責任のなすり合いは止めろっ！　俺は悲しいぞっ！」

　っていうか、そんな適当に飯作ってたのかよ。
　マジで悲しくなってきたぜ。

「「はい……」」

「今のこの時、この瞬間は２度と訪れないんだ……だからこそ、大切に生きる
ことが大事なんだ」

「「はい」」

「燃えろ、ときめけっ！　俺と一緒に青春の甘酸っぱさを存分に感じようぜ！」

　そして俺といちゃいちゃ・らぶらぶしようぜ。（←それが目的）

「……燃えろ……？」

「はにゅ？　ときめけ……？」






「来れ、『八竜』……あらあら浩之さん何をなされます」

　頭上に手をかざしたセリオを慌てて止める俺。

「実際に燃やしちゃ駄目」

「では、『らぐなろく』で雷雲を……」

「変わんないって」

　衛星からの攻撃で、家ごと焼失させられちゃ敵わん。
　あんなレーザーみたいなの、一瞬で真っ白な灰にされちまうぜ。

「あ、あのう……『ときめけ』と言われても、何をどうすればよいものやら」

　……あ、それもそうだな。

「……マルチ、俺のこと好きか？」

「はぁい、大好きですぅ☆」

　にこぉっ☆

「うっ」

　……どきどきどきどき。
　俺だけがときめいてどうするんだっての。

「そうか……俺も大好きだっ！」

「はにゃ〜ん……嬉しいですぅ♪」

　マルチは幸せそうに、へなへなと崩れ落ちる。

「それだっ！」

「はい？」

「その恥ずかしいような、くすぐったいような……それでいて幸せな気持ちが
……それが『ときめき』だっ！！」

「こ、これがときめき……」

　薔薇色に染まったその頬が、恋にときめく何よりの証だぞっ！

「あ、あの……私は……？」

「お前も大好きだぞ、セリオっ！」

「はっ、はいっ！」

　……ぺたん。

「あ……あら……？」

　セリオは俺の言葉を聞いた途端、糸が切れたように床に座り込んでしまった。

「変です……身体が言うことを聞かなく……」

「それも『ときめき』の力の１つダ」

「みっ……見られるだけでも気持ちイイなんて……」

　俺は、２人の目を交互に見つめながら。

「俺の『愛』が、お前達に不思議な効果を及ぼしているのさぁ……」

　どうだ、俺の気持ち……届いているかっ！？

「愛……なんですね……」

「も、もっと見つめてくださぁい……」

　見つめているだけで、どんどん瞳が潤んでくる２人。
　俺はもう我慢出来ずに、２人を抱きしめた。

「ああっ、どうしてお前達は……そんなに可愛いんだっ！」

　だきっっ！！

「「あんっ♪」」

「２人とも……愛してるぜっ！」

「わ、私もですぅ……」

「嬉しいです……」

　ってーか、もうマジで我慢出来んっっ！！
　何でそんなに悩ましげな視線で俺を見るんだよっっ！

「さぁ……一緒に行くぞっ！」

「ど、どこへ……？」

「俺の部屋」

「「喜んで……♪」」












「……何だか今日の浩之さん、変な勢いじゃなかったですかぁ？」

「ええ、ですが……最後の方はいつも通りでしたよネ♪（ぽっ）」

「……ですぅ☆（ぽっ）」

「あら……カ○ピスの瓶に入れていた、料理用のウォッカが半分に……」

「なるほど……浩之さんは、間違ってそれを沢山飲んじゃったんですねっ」

「「…………」」

　ニヤリ。












「うぁ……頭痛ぇ……」

「「おはようございます、浩之さんっ♪」」

「お？　おお、おはよ……」

　元気な２人の声が、ちょっと頭に響くかな。

「どうかされたんですかぁ？」

「ああ、何だか頭が痛くてな……昨日の俺、何かやったのか？　記憶がないん
だけど……」

「……まぁまぁ、カル○スでも飲んでさっぱりしてから考えましょう」

　そう言って、茶色い瓶を手渡すセリオ。
　おう、わかってんじゃねーか。

「調子悪い時は、こいつの一気飲みに限るよなぁ……」

　勿論原液でナ。

　ぱきゅん。

　ごっごっごっごっご……。

「ぷはぁ……って、あれ……？」

「「…………（どきどき）」」

「コレ、確か昨日も……きゅう」

　め……目が回るぅ〜……っ。

　……ぱたふ。

「「あっ……」」






「……浩之さん？　浩之さんっ！？」

「あああ……こんなハズでは……」






　……結局、再び目覚めたのは深夜になってからだった。