へなちょこセリオものがたり

その69「げーじつのすすめ 2」








 もみ、もみ、もみ……。

「お客さん、凝ってますねぇ」

「おっ、そこそこ……」

 やれやれ。
 セリオにも困ったもんだなぁ。

 もみ、もみ、もみ……。

 仰向けにベッドに寝転んで、マルチに腕や脚をもみ解してもらっている俺。
 うーむ、なかなか上手いもんだよな……。

「あれれ? ココも固くなってるですよぉ」

 ぎゅっ☆

「そ、ソコは違う……」

「えへへー、もみもみしちゃいますぅ」

 もみもみっ。

「おっ、おおおおおいっ! マルチっ!」

「きゃっ、いっつじょーくですぅ」

 あ、止めなくてもいいのに(爆)。

「…………」

 っていうか。

「ま、マルチぃぃぃっ!」

 俺は勢いよく起き上がり、そして……。






 俺がマルチに覆い被さりそうになった時。
 ナイスなタイミングで、扉をノックする音が響いた。

 こんこん。

「お?」

「……浩之さん、ちょっとよろしいですか?」

「おう、遠慮しないで入れよ」

 がちゃ。

「……失礼しマス」

「……ぷぅ」

 ま、マルチぃ……そんなに残念そうな顔するなよぅ。

「後でちゃんと……な?」

 なでなで。

「はぁい♪」

 よしよし、いい子だな。楽しみにしててくれよ(爆)。

「で……」

 俺がセリオに視線を移すと。
 後ろ手に、さっきのと同じようなキャンバスを隠していた。

「もしかして、また?」

 また、傍にある俺とは関係ないもの描かれてもなぁ。

「そっ、その……駄目でしょうか……?」

「うーん……」

 ったく、こいつは……狼少年の話を知らないのか?
 よし、いい機会だしマルチと一緒に教えておこうか。

「よし、2人ともそこに座れ」

「はぁい」

「……はい」

 ベッドから降り、床に座り込んだ俺。
 でも、2人はまだ座る素振りを見せず。

「ん? どうした……今から少しお話するからな、座って聞いてくれ」

「「座っても……いいんですか?」」

 ……へっ?

「お、おう……いいけど……」

 な、何故にユニゾンする?
 ……とか、考えていたら。

「それでは、失礼して……」

「『どこ』でもいいんですよね」

 セリオは、俺の正面に。
 マルチは、俺の背後に。

「えへへー」

 きゅっ。

 マルチは、背中から俺の首にしがみ付いて。

 ぽふっ。

 セリオは、胡座をかいた俺の足の上に座り。

「おい」

「……駄目ですか?」

 うるうるっ。

「……許す」

 全く、俺って奴は……。
 つーかマルチ、それは座るとは言わんだろ……。






「ふみゅぅ〜」

「……うふふふふっ」

「おい、お前達……人の話を聞いてんのかよ?」

 話始めてからずっと。
 マルチは俺にほっぺをすり付け、妙な声出してるし。
 セリオも俺に抱えられる格好で、マルチと反対側に自分の頬をすり付けてる
始末だし。

「2人とも……口が猫口になってるぞ」

「うみゅぅ〜」

「問題ありません……浩之さんの言葉は、全て覚えていますから」

 すりすりっ。

「……ならいいけどさ。で……その少年が発見された後、当然の如く見世物に
なってしまって大変な思いをしたそうだ。考えてもみろ、狼に育てられた人間
なんだぞ? 誰もが考えもしなかったことだからな……」

「……ところで、浩之さん」

「ん?」

「何故にそのようなお話を?」

 …………。
 あ。

「悪ぃ、間違えた。狼少年違いだった」

 ここからいいトコだったんだけどなぁ。
 その少年はアメリカの大財閥『マスターズ・コンツェルン』に引き取られ、
人としての知識や習慣を叩き込まれた後、何故か格闘技の世界へ踏み込んだと
聞いているけど……。
 赤い胴着に長い金髪で、見たことがある人も多いだろう。
 そう、現在はライバルである『巡回探食格闘者』を探して世界を転々として
いる、彼のコトだ。

 って……少々脱線してしまった。

「あまり嘘ばかり言ってるとな……本当のことを言った時でも誰にも信用され
ずに、悲しい思いをすることになるんだよ」

 本筋の話だけだと、早くもこれだけで終わったし。
 ちっ、無駄な時間を過ごしたぜ。

「あら、それは大変ですネ」

「……お前のことだっての」

 はぁ……わかってないのかなぁ。
 つーか、こいつらの色香に惑わされて自分を見失い、全然違う話をしていた
俺が悪いのだが。
 そりゃあんな話されたら、わけもわからなくなるだろうけど。

「……浩之さんは」

「ん?」

 ぴたりと頬ずりを止め、俺を見上げるセリオ。

「浩之さんも……信用してくださらないのですか……?」

「……馬鹿。お前が本気で言ってるのなら、何をおいても信じるさ」

 ぽふっ……なでなでなで。

 明らかに嘘だってわかるようなことは別だけど。
 でも、そうでない時は……やっぱり、信じるだろう。

「…………」

 ぽふっ。

「お、おい?」

「……ありがとうございマス」

 今度は俺の胸に顔を埋めたセリオだったが。
 微かにその身体が震えているのを感じた俺は、何も言えずに。

 ぎゅ……。

 ただ、優しく抱きしめるのだった。












「……出来ました」

「おお、今度は早いな」

 また先程と同じように、居間で俺を描き始めて10分程。

「今度は、嫌がらせじゃないですから」

「……やっぱり、そうだったんだな」

 しまった、と口を押さえるセリオを軽く睨んでみたりして。
 俺は立ち上がり、セリオの方に向かった。

「おっ、今度はちゃんと描いてくれたんだな」

 白黒写真みたいに鬼のように写実的に描かれたらどうしようかと思ったが。
 そんなことはなく、ちゃんとデッサンって感じで出来上がっていた。

「へぇ、上手いじゃん」

「……ありがとうございマス」

 後ろのソファーや花瓶や俺の肩のトコに浮いてる人の顔なんかも、しっかり
描き込んであるし……。

「…………」

 ひっ、人の顔っ!?

「せ、セリオ? この見覚えのない女の顔は何だ!?」

「あら……描いてる途中で消えてしまったので顔しか描けませんでしたが……
てっきりお知り合いの女性かと」

 ぷいっ。

「すねるなっ! 確かに女の子の友達は比較的多いが、好きな子はお前達2人
だけだっ!」

 『あ、いいな』って思う女の子も、いるにはいるが。
 そんなのは好きでも何でもなく、単なる興味だし。

 っていうか愛してるぞ、お前達……なんてことは、とりあえず今は言わずに
後へとっとこ。

「あら……(ぽっ)」

「……おい、今『消えた』って言ったか?」

 さらりとすごいことを言われた気がする。

「ええ……光学観測でしか存在が認められませんでしたから、変だとは思った
のですが」

「……ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 ……ぱたふ。

「ひっ、浩之さん?」

 ここここ怖いよぅ。
 それって、すっごく怖いよう。

「浩之さんっ! どうしたのですかっ!?」

 ふにっ。

「浩之さん、浩之さん……」

 セリオの胸の感触を頬に感じたけど、俺はそのまま意識を失ったようだった。












 もみ、もみ、もみ……。

「……ん?」

「あ、気が付かれましたネ」

「おはようございますぅ」

 もみ、もみ、もみ……。

「あ、ああ……」

 って。

「一体何を……?」

「マルチさんに話を聞いたところ、先程マッサージが途中で中断していたそう
ですから……」

「2人でもみもみしてたんですぅ」

 そうかそうか、ありがとな。

「ところで、マッサージはどこまで進んでらしたのですか?」

「ええと……」

 ニヤリ。

「ココですぅ♪」

 ぎゅっと、ソレを握るマルチ。

「おやおや……ある意味とてもススんでますネ」

 セリオも、ソレに手を添えてみたりして。

「そっ、ソコのマッサージはいいいいいいいいい」

「……『イイ』んですネ、了解デス」

 ニヤリ。

「マルチさんも、ご一緒に……」

「はぁい☆」

「あああああああああああああああっ……ぅあっ」






 ……その後。
 してやったりという顔の2人と一緒に、俺は風呂に入らざるを得なくなって
しまったわけで。

 ち、ちくしょぉぉぉぉぉ(半泣)。






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