へなちょこセリオものがたり

その72「あなたの腕の中で 3」








 セリオとの後、更にマルチとも風呂に入った俺。
 幸せそうな顔でふら付いてるマルチを支えながら部屋に戻ると、丁度ベッド
メイクを終えたセリオが恥ずかしそうに俺を見る。

「あっ……」(ぽっ)

「……そういえばさ、最初に持って来た包みって何だったんだ?」

「あ……はい」

 机の上から、小さな包みを取り上げて。
 ベッドの真ん中にちょこんと座ると、俺達を手招きして。

「ささ、どうぞお座りください」

「おっ、クッキーかぁ」

 ほう、手作りと見たぞ。
 もしかしてセリオの『準備』って、これのことだったのかな……。

 こんがり狐色なクッキーからは、バニラ・エッセンスの香りが漂って来た。
 俺が傍に座ると、セリオはスティック型の細長いクッキーを摘む。

「どうぞ、浩之さん……」

 粉が落ちないように、空いてる手をクッキーの下に添え。
 やはりと言うか何と言うか、微笑みながら俺の口元にクッキーを運ぶセリオ。

「あ、あ〜ん……」

 ぱくっ……もぐもぐ。

「ふむふむ」

 甘味は抑え目か……さくっと香ばしいのも美味いトコだな。
 って、何だか紅茶が欲しくなってくるぜ。

「いかがですか?」

「美味い……けど、お茶が欲しいかな」

「用意してありマス」

 ベッドの陰から、魔法瓶を取り出すセリオ。
 その蓋のカップに、とぽとぽと紅茶を注いで。

「どうぞ」

「さんきゅ」

 俺はカップから、熱い紅茶をすすり。

「うん……美味いぜ」

「ありがとうございマス」

「セリオさん、セリオさんっ」

 くいくいっ。

「今こそアレを実行に移す時ですっ」

「は、はい」

 ごにょごにょセリオの耳元でささやいてるマルチ。
 アレって言われても……何だろ、ちとわかんないぜ。

「あ、あの……私達も一緒に食べてもよろしいでしょうか?」

 はぁ?
 何だよ、そんなこと聞く必要ないじゃん。

「一緒に食った方が、もっと美味く感じるだろ」

「やはりそう思いますよネ」

 ……ぐっ!

 両拳を固く握り締め、セリオはガッツ・ポーズ。
 何でそんなことするのか、俺はさっぱりわからなかったわけで……。






「……そうか、こういうことか」

「そうです、こういうことデス」

「ああん、話してないで食べてくださいよぅ〜」

 マルチは、口にくわえたクッキーを俺の口に向けて突き出す。
 俺も、マルチとは反対側をくわえる。

 ぽりぽりぽりぽり……。

 ……ぱきっ!

「もぐもぐ、またまた残念ですぅ」

 両側から食べ進む2人の唇が触れる前に、クッキーは真ん中で折れてしまう。
 ……この為にわざわざ細長いクッキーを用意したらしい。

「し……しっかしコレはまた、なかなか……」

 最初は2人にされるがままであったが、そのうちに俺も慣れてきた。
 っていうか、すでにむきになってキスしようと奮闘していた。
 食べ進めるうちに微妙に顎の角度を変え、極力折れないよう努力して。

 でも、マルチは慌てて食べる為に……食べ始めの方で無理な力がかかって、
すぐに折れてしまう。
 セリオはと言うと……。

 ぽり、ぽりっ……。

「ああっ、もう少しですっ! セリオさん、ふぁいとですっ!」

 そうか、もう少しかっ!
 とか、俺がミスらないように気を引き締めたところで。

 ぽきん。

「あっ!」

「あら、残念ですネ……♪」

 ぽり……。

 妖しい笑みを浮かべながら、折れた部分を指で口の中に押し込むセリオ。
 こっ……こいつ、わざと折りやがったな……?

「…………」

 ぐいっ……ごくごく、ごくん。

 俺は温くなりかけた紅茶で、口の中をすっきりさせる。
 もうこうなりゃ、直接手段に訴えてやる。

「さて、丁度クッキーもなくなったことですし……今日はもう休みましょうか」

 ……へっ?

「そうですね、浩之さんもお疲れでしょうから」

 セリオは、クッキーの粉をベッドから払い。
 マルチは、紅茶のカップを片付け始めて。

 2人とも、何を言ってるんだ?
 
「お、おいおい……」

「浩之さん、今日のお風呂は最高に素敵でした」

「あうう……ある意味羨ましいですけど、私も負けないくらいに素敵なお風呂
を体験したですよ、きっとっ!」

 わかった……こいつら、示し合わせてやがるな。
 くそっ、こんなに血が騒いでるのにこのまま寝てたまるかっ!

 マルチが机の上にカップを置いたところを見計らって、セリオも巻き込んで
俺は2人にタックルをかけた。

「ちょっと待ったぁっ!」

 だだだっ……がしがしっ!

「はいっ!?」

「あうう」

 ……ぼふっ!

「2人ともぉ、いぢわるしないでくれよぉ〜」

 俺は彼女達の胸に、交互に顔をすり寄せながら。
 何度かふにふにした挙げ句に見上げると、そこには妙に優しい2人の笑顔が
あった。

「セリオさんの言った通りですねっ」

「ふふふっ……可愛いでしょう?」

 へっ?

「今日のお礼をさせてくださいネ」

「いつものお礼もさせてくださいねっ」

 何が何やらわからず、目を白黒させる俺に。
 彼女達は、極上の笑顔で微笑みかけて。

「「私達に、思う存分甘えてくださいっ☆」」

 ぎゅぎゅっ☆

「お……おうっ!」

 2人の美少女に、こんなことまで言われて。

 俺は幸せをかみ締めながら、とりあえず。
 2人の頭を引き寄せて、それぞれにキスすることから始めたのだった。






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