へなちょこセリオものがたり

その74「げこくじょお」








「下克上デス」

「……あぁ?」

 朝目覚めるなり、俺の腕の中でそんなことを言ったセリオ。
 下克上って……戦国時代に家臣が殿様を裏切って起こしたクーデターみたい
なもんだっけ?

「というわけで、今日は私達がご主人様なんですぅ☆」

「……浩之さんは、私達のメイドとなっていただきマス」

「…………」

 ほほう、今日はそういう話になっていたのか。

 ……たまにはいいかもしれないな。
 いつもこいつらに世話になってるんだし、今日は一生懸命ご奉仕することに
しようかな……。

「……あの、セリオさんっ……お返事がないですよっ、怒ったんじゃないですかっ?」

「……ううっ」

 俺が彼女達への献身を決めている間、当の本人達は何だか落ち着かない様子
で……。

「あの、浩之さん」

「ん?」

 自分らが「ご主人様」って言った傍から、俺にさん付けかい。
 ったく、面白いやら可愛いやら……へへへ。

「もし嫌なのでしたら、ごめんなさい……」

 ……今日はこんな2人を見ていられると思うと、是非ともご奉仕したい気分
になってきたぜ(笑)。

「……何なりとお申し付けくださいな、マルチ様にセリオ様」

「「…………」」

 マルチとセリオはちょっとの間、顔を見合わせて。
 お互い、手に手を取って飛び跳ねた。

「「ありがとうございます、浩之さんっ!」」

 だきだきっ!

「……それは結構嬉しいぞ、ご主人様達」

「「…………(にこっ)」」






 まずは、マルチから。

「あのっ、近う寄るですっ」

「何だよ、そりゃ」

 かくんっ。

「セリオさんが、こう言えばいいと……」

 ……何だかよくわかんないぞ。

「で、何をすれば?」

「んーと……」

 おいおい、先に考えておけよぅ。
 まぁ……今まで俺の為に働くのが喜びだったんだし、いざ奉仕される立場に
なっても戸惑うのかもしれないけど。

「……なでなで、しようか?」

「あ……はいっ! 是非お願いしますっ!」

 ……何だかなぁ。

 なでなで……。

「苦しゅうないですー」

 何かそれ……可愛いぞ、マルチ。
 ほっぺが緩みきってるのが、また何とも。

 なでなでなでなで。

「マルチ……様、だっこしてもいい?」

「はいー、よきにはからうですぅ」

 よっしゃ。

 ……だきっ。

「……いかがなもので?」

 なでなで。

「幸せなことこの上なし、ですぅ〜♪」

 ……実際、見た目嬉しそうだし。
 よしよし……ずーっとこうしていような、マルチ。












「……なでなで、してください」

「承りでござる」

 なでなでなで。

「…………」

「…………」

 ……何か、会話がないのも寂しいなぁ。

「あの、セリオ様……」

「頭が高いデス」

 ……むぅ。
 頭が高い言われてもお前、お互い床に座ってるんだしさぁ。

「……頭は、ココ。いいですか?」

 そう言いながら、俺の頭を押しやるセリオ。
 どこに押しやったかと言うと……。

 ……ぽふっ。

「……あの?」

「ココが定位置デス。わかりましたか?」

「……はい」

 優しく自分の膝に俺の頭を置いたセリオ。
 無理矢理でもなく、かといって遠慮しまくりな風でもなく。

 自然に……そう、ごく自然に俺も身体を動かしていたのだった。

「さて……そんじゃ、ご用事は?」

「……ずっと、このままでいてください」

 俺の髪を、ゆっくりとなで付けながら。
 ……あのさぁ、それって立場が逆じゃん。

「いいの? 好きなこと命令出来るんだぞ?」

「……これが、『好きなこと』ですから」

 にこっ。

「……あいよ」

 それから、しばらくセリオになでなでしてもらった。






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