へなちょこセリオものがたり

その76「私の想いを受け止めて」








 今日は、川原で戦争ゲームをやることにした。
 戦争と言っても、所詮はゲーム。セリオが用意したミニ兵器を使って、模擬
弾頭で模擬戦闘をするだけだ。

 でも、やっぱり俺は心が踊っているわけで。
 何てーか……『憧れ』みたいなものって、あるよな。

「……では、先に聞いた希望通りの兵器をご用意しました」

「わぁい、てぃがー戦車ですぅ♪」

 『タイガー』って言わないところがミソだよな、マルチ。

「無限軌道ですぅ〜♪」

 マルチは早速戦車にまたがり、キャタピラをきゅらきゅら言わせてその辺を
走り回っている。

「おおっ、これコレ! 1回でいいから、コレに乗ってみたかったんだよぉ」

 俺がセリオに頼んだのは、メタルギア!
 やっぱ、男ならこいつだよなぁ……とは言っても、ちんまりサイズ……俺が
傍に立って腕を伸ばせば、天辺に触れるくらいだ。
 ……本当は初期型のがよかったんだけど、在庫がないとかで……結局最近に
開発された、メタルギア・レックスというタイプに落ち付いてしまった。

 小さくしてあるから中に人が乗れるわけもないのだが、そこはそれ。
 上手い具合にデフォルメしてもらって、狭いけど何とか乗り込むことが出来
るようにしてあった。

「って……セリオは?」

 見たところ、他に戦車とかは見当たらないけど……。

「私、ですか……? すでに用意は整ってマス」

 ニヤリ。

 ……ぞくっ。

 まただ。
 また、いつもの嫌な予感だよ……。

「では、開戦です……尚、無条件降伏は認めませんのでそのつもりで」

「なっ……待て、降伏なしだなんて……」

「それが戦争というものデス」

 ぱひゅんっ!

 セリオは高々と舞い上がったかと思うと、川を挟んだ対岸へ移動。
 ……あいつ1人だけでも、十分に戦争出来そうだよなぁ。






「えーと……」

 肩の辺りに付いているレーダー・レドームが、セリオの位置を座標数値で俺
に教えてくれる。
 俺はその指示に従ってレバーを倒し、ミサイルのトリガーを入れる。

「ていやっ!」

 ばひゅんっ!

 俺が着ているアーマーから、弧を描いて飛んで行くミサイル。
 自動追尾だぞ、どうだ……って、本当に模擬弾なんだろうな……。

「漆式『こくー』」

 ぱきゅん!

 天空から一条の光が飛来し、川の真ん中でミサイルを射ち落とす。
 っていうかレーザーに貫通されたミサイルは、力を失って水中に落ちた。

『セリオっ! 衛星使うのはずるいぞっ!』

 俺はマイクを握り、外部スピーカーでがなり立てる。
 が、セリオはそんなのどこ吹く風。

「ご心配なく……この為にミニ攻撃衛星『はちりゅー』を打ち上げましたから」

 いや、小さいかどうかの問題じゃなくてさ……俺の装備が全て模擬戦闘用で
あるのに対して、セリオのレーザーは……。

「さぁ、お覚悟を……!」

『ひ、ひぃぃぃぃ……』

 セリオの瞳が、怪しくきらめき。
 対照的に俺は、身がすくんで動けず。

「『なだ……』」

 天に高々と掌を掲げ、いつもの衛星発動キーワードを唱え……ようとしたが。

「距離方角風速塩加減その他大体よし、てーっ☆」

 どごっ!

 そういえば存在を忘れていたマルチの戦車から、それは痛そうな鉄球が射出
されて。

 ごす……。

 うをっ、やけに重い音だぜ……。

「……れっ……」

 ……ぱたん。

「目標の沈黙を確認ですっ!」

「た、助かった……」

 俺の乗ったメタルギアは、へなへなとその場にへたり込む。
 ったく……セリオの前じゃ、コレも歩く棺桶でしかないからな……。

 ……あ、背中のレールガン使えばよかったのか。
 本物は小型核弾頭が搭載されているんだけど、コレは最初に見たところじゃ
単なる鉄球が載ってたし。






 たたたたたっ……。

「うお〜い、マルチぃ〜!」

 俺はメタルギアから降り、マルチの元へ向かう。
 危機一髪で助けてくれたんだ……相応のお礼をしなくちゃな、へへへ。

「あっ、浩之さん〜」

 きゅらきゅらきゅら……。

 背中からかかった俺の声に反応して、戦車を反転させるマルチ。
 ううむ、歩いた方が速いような気もするけど……またがってるマルチが楽し
そうだから、いいか。

「助かったぜぇ」

「……敵影発見、照準モードですぅ」

 ……て、敵ぃ!?

 マルチは、さっきからずっとにこやかな笑顔で。
 俺が目を白黒させている間に、砲塔の旋回も完了して。

「主砲ろっくおん、発射準備完了ですー」

「まっ、ままま待てっ! 俺、今は生身……」

 あんな鉄球食らったら、いくら何でも……。

「……てーっ☆」

 どっこん!

「うひゃ!」

 さすがに覚悟を決めた俺。
 だがその弾丸は、俺の頬をかすめて後ろの方へ飛んで行き……命中した音は、
川の向こう岸から聞こえた。

 めしっ……。

「……はぅ」

「……あ、セリオ」

 さっきの衝撃から復活したのだろう、丁度立ち上がったところで再びマルチ
の砲撃を食らい。
 今度は、頭から地面に崩れ落ちた。

 ずしゃ……。

「敵兵は殲滅したですよっ!」

「せ、殲滅って……」

 立ち上がったところを狙い撃ちとは……結構鬼な真似するのな、マルチ。

「……ま、何にしろ礼を言うぜ」

 きゅらきゅら……ききっ。

「はぁい、お礼を言われるですぅ〜♪」

 戦車を止め、ぴょんと飛び降りて俺の元へ走り来る。
 彼女の身体をぱふっと抱きしめて、ちょっと安堵の溜め息。

「ふぅ……マジで俺を撃ったのかと思ったぜ」

「あれ? 撃って欲しかったんですかぁ?」

「いや、まさかそんな」

 慌てて彼女の頭をぐりぐりとなでる俺。

「はみゅぅぅぅ♪」

「さて……」

 頭に鉄球めり込ませたままのセリオを、マルチの戦車に乗せて。

「セリオさん、大丈夫でしょうか……」

「……大丈夫だと思うぞ、奴なら」

「それでは、帰るですねっ」

「おう」

 俺はメタルギアに乗り込んで。
 戦車に乗った2人の後を、がきょがきょ歩いて行くのだった。






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