へなちょこセリオものがたり

その77「フェイク・トゥ・フェイク」








「…………」

 セリオが、妙な様子だった。
 何が妙かって……朝から縁側に座ったまま、微動だにしないのだ。
 話しかけても、ぼーっと庭を眺めているだけで。

 日向ぼっこしているのかと思っていたが、昼も過ぎた頃にはさすがに心配に
なってきた。

「なぁ、セリオぉ」

「…………」

 まるで俺の声が聞こえていないかのように、ぴくりとも反応なし。
 そこで俺は、少し突っ付いてみたりして。

 ……ぷにぷにっ。

「…………」

 ……さわさわっ。

「…………」

 ……もみもみもみ。

「…………」

 ……変だ。
 絶対、変だ。

 ほっぺを突付くくらいならまだしも、お尻や胸を……おっと(爆)。
 ともかく、彼女はこれでもかというくらいに無反応だった。






「おーい、マルチぃ」

「はぁい、何でしょう?」

 昼飯の準備をしてくれていたのか、ぽてぽてっと菜箸を持ったまま俺のとこ
に走って来るマルチ。

「なぁ……セリオ、どうしたんだ? 朝からあの調子なんだけど……」

「……バッテリー切れでしょうかねぇ」

 マルチも、はっきりとはわからないらしくて。
 2人して首を傾げたまま、ちょっとの間セリオを眺めていた。












「……待て、何か変だぞ」

「ほえ? 何がですかぁ?」

 マルチが言うようにバッテリー切れならば、俺が触った時の彼女の温もりは
何だったんだ?
 それにバッテリーやらCPUやら、重要な部分に異常があった場合には警報
が鳴るはずだけど……。

「…………」

 俺はセリオの目の前で、軽く手を振ってみる……が、相変わらず反応はなし。
 次に、彼女の身体を抱き上げてみた……いわゆるお姫様抱っこで。

「……むぅ」

 軽い。
 異常に軽い。

 いつも彼女の上なり下なりになっているから、その体重くらいなら感覚的に
わかるつもりだ(爆)。
 それが、妙に軽い。

「セリオ……出て来るなら、今のうちだぞ?」

 そう、俺はこのセリオはフェイクであると踏んだ。
 体温や触感は、来栖川の技術を持ってすればどうにでもなるだろう……中身
のない、単なる風船人形でさえ。

「10秒以内だ……10……9……8……7……6……」

「……ちっ」

 頭の上から、舌打ちする音が聞こえ。

「さすがですネ、浩之さ……」

「……ごぉよんさんにぃいちぜろっ! ぶっぶー、時間切れっ!」

 ……すたっ。

「ず、ずるいですっ!」

 へへへっ、結構困った顔してやがるぜ。

「時間内に俺の目の前に出て来なかったから駄目ーっ!」

「駄目って……途中からカウントが速くなったのに……」

「というわけで、コレは好きにさせてもらうぜっ! じゃっ!」

 だだっ!

「ああっ! お待ちをっ!」

 俺は偽セリオを抱えたまま、2階へ走り出した。
 不意を突かれたセリオは、慌てて追いすがったけど追いつけず。

 だだだだだっ……ばたん!

 ……がきっ。

 ドアノブのとこに木刀を引っかけ、ドアを開閉出来ないようにしてやった。
 コレ使って何か悪戯でも企んでたんだろうけど、今日のところは俺の勝ちだ!

「へへへっ……さぁて……」

 どんどんどん!

『浩之さんっ! 返してくださいっ!』

「返すぜ……調査が終わったらなぁ〜」

『調査って、一体何の調査なんですかぁ〜……』

 そりゃもう、色々と(爆)。












 がちゃっ……。

「ふぅ……はいセリオ、これ」

 1時間程経った頃。
 俺はノブから木刀を外し、ドアを開けた。

「うぁ……少しくらい遠慮してくれても……」

 俺が偽セリオを彼女の目の前に下ろすと、ちょっとその顔が引きつったのが
わかった。

「べ、べとべと……デコイとはいえ、複雑な気持ちです……」

 しまった、ふきふきしとけばよかった(←何を?)。

「デコイでも……やっぱセリオだしさ、何かこう燃えちゃって」

「……ならいいデス(ぽっ)」

 お?
 よかった、怒ってない……。

「でも、あの……ホンモノとニセモノとの違い、知りたくありませんか?」

 なっ、何故に顔を赤くしながら言うのだ?

「……教えてもらいたいな、是非」






 ……というわけで。
 俺はセリオに、たっぷりとホンモノのよさを教えてもらったのだった。

「……やっぱ、イイな」

「……でしょう? ふふふ……」

 結局、真セリオもべとべとにしてしまった(爆)。






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