へなちょこセリオものがたり

その84「明日天気になぁれ」








 ぶんっ……ぶんっ……。

 セリオが、庭先で傘を逆さに持って振り回していた。
 そう……丁度、駅でゴルフの練習しているおっさんみたいに。
 足元には一応、ゴルフボールに棒が付いてて打ったらその場でくるくる回る
アレが置いてあったけど。

「お? セリオ、ゴルフするのか」

 駅で(中略)おっさんのように。

「いえ……長瀬主任から、接待ゴルフに出てくれと言われまして」

 むう。
 いくら生みの親とはいえ、俺の愛するセリオを接待に利用するとは何事だ。

「出る必要はない……お前は俺のものだ、接待なんか俺が許さん」

「まぁ……嬉しいお言葉ですが、実は以前からやってみたかったのデス」

「……何だぁ」

 ちっ。
 折角歯が浮くのを我慢して、クサい言葉を言ってやったのによう。

「大丈夫ですよ、浩之さん……おっしゃる通り、私の全てはあなたのモノです
……身も、心も」

「お、おう」

「ですから……スケベ親父にお触りされたりしたら、それを理由に半殺しの刑
に処しマス。全ては浩之さんの為にネ」

 ニヤリ。

「お、おう……」

 長瀬のおっさん、セリオをコンパニオン代わりにしようと思ってたんだろう
けど……この分じゃ、ただでは済みそうにないな……。
 っていうかもしかして、その後で俺が管理責任を問われるのだろうか。






「それは冗談として」

「何だよ、冗談だったのか」

 何故か残念な自分に気付いて、ちょっと複雑な気分だぜ。

「ちょっと気になったことがありまして、実験をしていたのデス」

「気になったこと?」

「ええ……ゴルフのスイングをする時には、麺類の名前を言いながら振ったら
タイミングを取りやすいとか……」

 ……ああ、チャーシューメンとかラーメンとかのことか。
 3拍子ならチャーシューメン、2拍子ならラーメンといった具合だっけ。

「そういえば、時々耳にするよなぁ」

「それが、どうしてもタイミングを掴めないのデス」

 だってそりゃ、そんな傘じゃ合わんだろうさ。

「プロゴルファーのデータをダウンロードしていますから、フォームや知識は
完璧なのですが……いかんせん、『勘どころ』というものはデータ化しにくい
ものでして」

 へぇ、セリオでもそんなことってあるんだ。
 一見完璧なサテライト・サービスにも、そんな弱みがあったのか。

「よし、ちょっと俺が見てみよう」

 素人の俺が一見してわかるような欠点はないとは思うけど。
 でも、何か気付くこともあるかもしれないし。

「ええ、お願いしマス」

 すっ……。

 セリオは、真面目な顔で傘を握り締め。
 すらりと伸びた綺麗な脚を俺に見せ付けるようにしながら、場所取りをして。

「では」

 ぶんっ……べそっ!

「いかがですか、浩之さん?」

 ……変な音するなぁ。
 ま、傘だしな。

「……綺麗だなぁ」

「……もう、何を見てらっしゃるんですか……(ぽっ)」

「いや、今のフォームがさ」

 綺麗な円弧を描いて、くるーんってさ。

「…………」

 めきっ。

 うを。
 何だ、どうしていきなり傘を握り潰すっ!?

「そっ……そういや、麺類って何も言わなかったんじゃないのか?」

「……ええ。口には出しませんでしたが」

「よし、今度は口に出して行ってみよー」

「……了解」

 セリオは不機嫌そうにそう言うと、傘を別のと取り替えて。

 ぷいっ。

「…………」

 ああっ、何か怒ってるよう……怒らせるようなこと言ったか、俺?

「さ、さぁ……またお前の綺麗な姿、見せてくれよっ!」

「……ええ♪」

 にこぉっ☆

「……むぅ」

 何で嬉しそうに笑う?
 さっぱりわからん……怒ったり笑ったり、全く女心は謎だらけなり。

「せぇの……」

 ざしっ……。

「す……」

 くっ、来るぞっ……。
 ……って、『す』?

 『スタミナラーメン』とか?

「すーぱげてーかーるぼなーらっ!」

 ぶんっ……べにっっ!

「そんなんで合うかっ!!」

「……あら、でも麺類ですヨ」

 せ……せめて、ワンタンメンとかにしてくれりゃいいのに……。

「お前なぁ……頼むぜぇ」

「うふふっ、冗談デス♪」

 がくっ。

「あら……」

 コケた俺を、面白そうに見つめるセリオ。

「く、くそぉ……」

「だって、私のかけ声は決まってますから♪」

「へっ?」

「見ててくださいネ……」

 すぅっ……。

 セリオは眼を細め、両足を何かよさげな位置に移動させる。
 ……っていうかお前、今まで絶対本気じゃなかったろ……?

「……ひっろゆっきさ――――んっ♪」

 ぶんっ……ぱきょ――んっ!

「ほら、ぴったりです♪」

「……も、いい……好きにしてくれ……」

 傘を投げ捨て、俺に抱き着いてくるセリオを受け止めつつ。
 今日も俺の負けだな、とか思ったのだった。






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