へなちょこセリオものがたり

その85「フォトグラフ」








 今日も今日とて、マルチは定位置に。
 そう、そこは俺の膝の上。

「ん〜っ♪」

「んーっ」

 ちゅっ☆

「えへへー……今日もお顔がニヤけてますよ、浩之さん?」

「何だよう、お前こそほっぺが緩みきってるじゃないかよう」

 相変わらず可愛い奴だぜ、全くよぅ。

 つんつん……ふにふにっ☆

「やぁぁん、そこはほっぺじゃないですぅ」

「だって、同じくらいぷにぷにしてるぜ?」

 ふにふにっ……。

「訂正、ふにふにだった」

 へへへ、手にすっぽり収まるサイズがたまらないぜ。

「やーっ、もう……浩之さんのえっちぃ♪」

「…………」

 ぱしゃっ!

 いきなり鳴った、変な音。
 驚きつつも音のした方を見ると、セリオがカメラを構えていた。

「……しゃ、写真!?」

「あうう、私達の睦言の現場を激写されてしまったですー」

 睦言って……ま、そんなもんか(爆)。

「というわけで、今日はお写真を撮らせていただきます」

「写真って……お前達、そんなの必要ないんじゃ?」

 だって、メモリーからパソコンか何かにデータを写してプリント・アウトで
オッケーじゃん。

「ちっちっち……私達は所詮、デジタル・メモリー。定期メンテナンスの度に
バックアップを取っていただいているとはいえ、それもいつ何時消えてしまう
ものやら……ですから、こういった確たる『記録』も欲しいと思いまして」

「……ううむ」

 確かに、何かの拍子でデータが全て飛んでしまうことだって考えられるわけ
だよな。
 ……そう考えると、すっげぇ不安になってきた……。

「な、なぁ……お前達の『記憶』って、そんなに消えやすいのか?」

「……ぷっ……そんな泣きそうな顔しないでください。バックアップはその度、
DVDで2セットずつ保管してますから」

「メンテとメンテの間の記憶は……?」

 その間の記憶が、もし飛んでしまったら。
 彼女達と共有した時間を失うことも辛いが、それ以上に彼女達の悲しむ顔を
見るのが辛い。

 ある程度までの記憶は残っていても、失った時間のことを知れば……。
 そして、きっとこいつらは俺のことまで気にするだろう。

「……大丈夫ですよ、浩之さん。ある程度の衝撃や磁場にも耐えられるくらい
の防御策はしてありますし、毎回の充電時にも簡易チェックやバックアップを
行っていますから」

 完璧だ、とは言わないのな。

「だってよぅ……」

「そんなに心配しないでください……今まで大丈夫だったんですから、きっと
これからも大丈夫デス」

 ぎゅ……。

 セリオは、そっと俺を抱きしめてくれて。
 その暖かみが、とっても心地よかった。

「……うん」

 まだ、安心はしてないけど。
 でも、これ以上彼女達を困らせたくもないから。

「変なことを言って、すみませんでした。……まぁ、やはり記録媒体としては
アナログも捨て難い、ということです」

「へ?」

「ですから、一緒に写真撮りましょうね♪」

「……おう」

「うーっ……」

 マルチには話が難しかったのか、全然付いて来てなかったようで。
 気付いたら涙目になってて、ぎゅーっと俺のシャツを掴んでいた。

「ああっ、勿論マルチも一緒だって! ほらほら、飴あげるから泣くなぁ」

「……はぁい♪」

 ぱくっ☆

 ……ふぅ、お手軽な奴で助かったぜ(爆)。






「……では、浩之さんはそこへ」

「ここ?」

 セリオが指差した、ソファーの真ん中辺りに座って。

 何だか、あのカメラ。
 ……よく見ると、結構古いカメラみたいだな。
 一眼レフで、よくわかんないけど何だか高そうだ。

「マルチさんは……そうそう、ぴったりくっ付いてくださいネ。私は反対側に
ぴったりくっ付きますから」

「はぁい☆ それなら得意ですぅ、まっかせてくださいっ♪」

 だきっ!

「へへへ……何か照れるなぁ」

 こんな状況の写真、現像に出すのが恥ずかしい気もするけど。
 でも、マルチもセリオも嬉しそうだなぁ……今まで写真なんか撮ったことが
なかったしな。

 ……あ、ネコプリはこの場合パスな。
 アレは写真と言うには、ちょっと特殊だし。

「セリオぉ……そのカメラって、もしかして年代物?」

 びくっっ。

 ……ん?

「え、ええ……長瀬主任のツテで入手したのデス」

 ほう、おっさんが絡んでるのか。

 たたたたたっ……ぱふっ!

「さて、準備完了デス」

 セリオは俺のとこまで走り寄って来て、マルチと反対側から俺に抱き付いた。

「セルフタイマーなんか付いてなさそうだけど、どうやってシャッター切るん
だよ」

「…………」

 あ、やっぱし考えてなかったな。

「だっ、大丈夫デス。車載AIが腕時計経由でシリンダー錠を解錠出来ちゃう
ご時世なのですから」
 『ナイトラ○ダー』のキットのことですな。
 セリオは意味不明なことを言いながら、カメラに向かってくいくいっと指を
動かす。

「だから、ちょっとした操作で……」

 ぱしゃっ。

「……ほほう」

 なかなか面白いことが出来るのな。

「えっへん」

 得意気に胸を反らすセリオだったけど。
 ついつい俺は、その胸に触りたくなってしまって。

 ……つんつん。

「あんっ」

「その顔撮ってくれたら嬉しいのに」

 ……まぁ、それこそ現像に出せなくなるけど。

「……もう、浩之さんたら(ぽっ)」

「でさ、問題点がもう1つ」

「はい?」

 俺は指先でのつんつんだけでは飽き足らず、両手でセリオの胸をもみ始め。
 もちろん、俺の行動に意味などないがナ。

 ふにふに……。

「あっ、ああん」

「フィルム……手巻き式なんだろ?」

「…………」

 やっぱし、また図星のようで。

 もみもみもみもみもみ……。

 お仕置きとばかりに、セリオがへろへろになるまで続けてたのだった。






 俺がもむのに飽きて、そろそろ次の段階(爆)に移ろうかと思った時。
 絶え絶えな息で、セリオが言った。

「……そっ、そういえばレリーズがあったのですっ」

 先に言え、先に。
 もまれ損じゃん……いや、あの表情だと得したと思ってるかも(爆)。

 そういうことならしょうがない、続きは後にするか。

「えーと、確かこの袋の中に……」

 セリオがお道具袋の中身を漁っている間、俺の隣でずーっと寂しそうにして
いたマルチの胸をまた触ってみたり。

 ふにふにふに……。

「はっ……ぅんっ、駄目ですぅ……っ」

「うんうん、セリオとはまた違った喜びがあるものよのう」

 サービスして耳まで舐めちゃうぞ、このこのっ。

 ぺろぺろっ。

「ひぁぁぁぁん」

 しばらく続けていると、いい加減へろへろっとなったマルチ。
 でもふにふにするのは続けながら、セリオに声をかけてみたり。

「おーい、まだかぁ? 早く済ませて、みんなで2階へ上がろうぜぇ」

 そう、みんなで一緒にナ(爆)。

「ええ、私もそうしたいのですけど……あっ、ありました」

 みょ→に長いレリーズは、3m程あっただろうか。
 ……何でそんなものまで用意してあるんだろ。

「さて……では浩之さん、私達の真ん中になって写ってくださいネ」

 レリーズをカメラに取り付け、フィルムを巻いて。
 そして、ぱたたと再び俺の傍に来て。

「おう」

 ぽーっとしてるマルチを抱き起こし、俺の胸にもたれさせる。
 切なそうに俺を見つめる彼女、なだめるように肩を抱いてやり。

「撮り終わったら、すぐに可愛がってやるからな」

 なでなで。

 他方、セリオは俺の身体を抱く格好でポーズを決めたらしい。
 自然と俺は、セリオの肩にも腕を回す形になった。

「では、写しますよ……」

「は、はぁい……」

「おう」

「せぇの、いち足すいちは」

「「「にぃ」」」

 ぱしゃっ!

 うを、しまったぁ……つい合わせちまったが、何て恥ずかしい合図なんだっ!
 あんまり情けなくて、マルチの胸を触っちまうぜ……(何でだ)。

 ふわーんっ……。

『って……あれ?』

 すかっ、すかすかっ。

 マルチの身体に触ってるはずなのに、俺の手が通り抜ける……。
 まるで、俺の手が実体ではないみたいに。

 ……ん? 待てよ待て待て、それって……。

「ほええ? 浩之さん、動かなくなっちゃいましたよー?」

「あらあら……実験は上手くいったようですネ」

 じ、実験?

「写真を写す時、真ん中になって写った人は魂を抜かれてしまうという……。
ああっ、まさか本当にこんなことが起こるなんてっ」

 両頬に手を添えて、『信じられない』と頭をふるふる振るセリオ。
 ……こんなことが起こるってお前、何より俺が怒るぞ。

「大正の昔に帝都を震撼させたこのカメラ、わざわざ取り寄せた甲斐があった
というものデス」

 ……昭和初期か中期ならまだわかるけどさ、大正時代にそんなカメラが……?

「あの、セリオさん……1つ聞いてもいいでしょうか?」

「はい、何なりと」

「抜けた魂は、一体どこへ? それと、どうやって元に……?」

 と、とりあえず今は本体の傍にいるみたいだぞお前達っ。
 どっか飛んで行かないうちに、早く戻してくれよっ(あせあせっ)。

「…………」

 しーん……。

「ああっ!?」

 『ああっ!?』じゃねぇぇぇぇっ!!

 ……悲しいかな、突っ込みの声は声にならかなかったようで。
 わたわたと懸命に俺の身体に入ろうともがいたけれど、俺の目の前はいつの
間にやら真っ白になって行くのだった……。












 ……眼を覚ますと、珍しく血相を変えた先輩が傍にいた。 
 黄泉路をいいタイム(あの世新記録)で進んでいた俺を、ぎりぎりのトコで
引き戻してくれたそうだ。

 一面のお花畑に、ほやーんっと佇んで俺を呼んだ先輩……綺麗だったなぁ。
 みんなにも見せてやりたかったぜ(爆)。

「…………」

 ぎゅぅ。

「ああ、もう大丈夫なんだろ? あんましセリオを責めないでくれよ」

 それは俺が後でするコトだから(爆)。

「ううっ、何と申し開きをすればよいものやら」

 先輩のお仕置きなのか、猫耳パーツ装着の上で四肢を縛られて吊るされてる
セリオ。
 ……何か、そそるなぁ(爆)。

「…………」

「へっ? いぢめていいの? ほんと?」

「…………」

 こくこく。

「…………」

「あのさ、その前に……放してもらえると助かるんだけど、先輩」

「…………(赤っ)」

 さっきぎゅってされてから、ずーっと抱かれたまんまだった俺。
 やーらかい感触から離れるのは惜しかったが、いつまでも抱かれたままって
わけにもいくまい。

「…………」

「え? 恥ずかしいから帰る? ……って、ああっ!」

 たたたっ!

 俺が礼を言う間もなく、先輩はダッシュで去ってしまったのだった。






「……さぁて、どうしてくれようか」

 猫が敵を挑発するポーズ……あれが丁度逆さになった状態かな。
 違う意味で俺を挑発しているとも取ることが出来る格好でナ。

「にゃ……にゃおぅん♪」

 可愛く鳴き真似しても駄目だぞ。

「……マルチっ、カムヒアっ!」

「はっ、ここにっ!」

 しゅたっ!

 逆さになったまま、セリオは不安な表情を浮かべたけど。
 にやにやしながら近付く俺達を、どこか嬉しそうな顔で迎え。

「さぁ……可愛がるぞっ、マルチっ!」

「らじゃーっ♪」






 ……んで。
 結局セリオは喜んでばっかりで、全くお仕置きにならなかった(爆)。






<……続きません>
<戻る>