へなちょこセリオものがたり

その86「知らない方がいいコトも」








「あの、浩之さん」

「ん?」

「ちょっとお願いがあるのですけど」

 む……セリオがお願いしてくるなんて珍しい。
 うむ、何でも聞いてやっちゃうぞっ。

「何だ?」

「ちょっとこの輪っかを頭にはめていて欲しいのデス」

 そう言いながらセリオが取り出したのは、金色の輪っか。
 中国の某お猿が付けてたっつーアレを連想してしまった。

「……もしかして、ぎりぎり頭を締め付けたりする?」

「いえ、単に頭の中で考えてるコトを知ることが出来るようになるだけデス」

 た、単にって……そんな簡単そうに言うことかぁ?

「……ならいいや」

 別に知られて困るようなこと、考えないしな。






「浩之さぁん」

「おお、マルチぃ」

 たたた……。

 よしよし、このまま抱き止めてなでなで・だきだきだぁ〜。
 その後は……へへへ、流れに任せるってやつかな(爆)。

 たたた……ぴたっ。

「ん? どうした?」

「ひっ、浩之さん……えっちなことだけ考えてるですねっ?」

 ああっ、バレてるぅっ!
 この頭の輪っかのせいかぁっ!

「えっちな人には近寄らないんですー」

 たたたたた……。

「ああっ、マルチぃ!」

 に、逃げるなんて……酷いぜ。
 くそっ、こんな輪っか外してやるぜっ!

 がしっ……ぐいっ!

「……あれ」

 ぐいっ……ぐいぐいっ!

「……外れない」

 どんな仕組みになっているのか。
 付ける時はすっぽり入ったはずなのに、今は頭にぴったりフィットして取れ
なくなっちまってやがる。

「ああっ、マルチぃ〜……」

 ううっ……この分じゃセリオも、俺の顔見た途端に逃げそうだな……。
 な、何てこった。

 床に膝を付き、がっくり項垂れる俺。
 そんな俺を眺める2対の目線があったことなど、俺は知る由もなかった。






「……これでいいんですかぁ? 浩之さんが可哀相ですぅ」

「ふふふ……『空腹に勝る美味いものなし』と言います。お預けを食らうこと
によって、浩之さんも私達もいつもより……うふふ、楽しみデス」

「あ、あうう……でもでもぉ……」

「ご安心を、マルチさん。あと3分したら、一緒に浩之さんのところへ行って
みましょう」

「さ、さんぷ……」

「何か?」

「みじか……いえ、何でもないですぅ」

「では、そのように」






「…………」

 ぼーっ……。

 たたたたたっ。

「「浩之さんっ」」

 ……ん?

「輪っかのテスト、終了です。ご協力ありがとうございました」

 セリオが、俺の頭の輪っかを外そうとして。
 でも、俺はその手を遮って。

「あら、浩之さん?」

「いいよ……マルチの言った通り、俺はえっちなことしか考えてなかったしな
……これもいい機会だ、この輪を戒めとしてお前達に淫らな感情を持たぬよう
精神修行するぜ!」

 そう。
 こいつらの純粋な気持ちに対して、俺って奴は……。
 裏切っていると言われても仕方のないコトを考えてたかもしれない。

 だから、彼女達の気持ちに応える為にもっ!

「……どうしましょう、セリオさん? たった3分で悟りを開かれてしまった
ですぅ」

「本気のようです……弱りましたネ」

 ああっ、そんなに困った顔をして……すまん、俺が至らないばかりにっ。
 かくなる上はお詫びと反省を込めて、禁欲生活を送ることにするぜっ。

「そっ、そんなぁ……」

「今までごめんな……これからは、純粋な愛をお前達に……」

「……えい」

 ごす。

「……きゅう」

 ……ぱたふ。

「ああっ、浩之さんっ!」

「……ふぅ、今のうちに部屋まで運びましょう」

「で、でもぉ……目が覚めても今のことが……」

「ふふっ……そこは私達の努力です。輪っかを外して『実は気のせいだった』
ことにしてしまうんです……長年染み付いた習慣というのはすぐには直らない
ものですから、起きた瞬間から行動開始です」

「は、はいっ」






「浩之さん、浩之さん」

 ……んっ?

「あ、あれ……」

「どうされたんですか? いざという段になって急に気を失われたのですから、
私達はとても心配したのですよ」

 ……何故に抑揚も付けずにセリフ棒読みするんだ、マルチ?

「……マルチさん、もっと自然に自然にっ」

「あっ……浩之さん、早く続きをしてくださいですぅ」

 だきっ!

 ……続き?

「って、どうしてみんな裸っ!?」

「い、嫌ですね……全部浩之さんが脱がしたんじゃないですか」

「そうですぅ、またケダモノさんになってたんですぅ」

 そ、そうなのか……?

「覚えていることと言えば、確か禁欲がどうこう……」

「まさか、浩之さんがそんなこと言うハズがないですよぅ」

「そうですよ……えっちじゃない浩之さんなんか、浩之さんじゃないですから」

 だ、だってさぁ。

「セリオから、変な輪っかを付けてくれって言われて……」

「夢っ! それは夢なんですぅ! さぁ、早くっ!」

 ……そっか、夢かぁ。
 そうだよな、この俺が禁欲なんて口にするわけがないし(爆)。

「えーっと……ドコまで進んでたんだ?」

「ずっ、随分時間も経ってますから……最初からお願いしますっ」

「……おっけー」

 何か頭がずきずきする気がするけど。
 まぁ夢のせいだろう、うん。

「ではでは……いっただきまーすっ!」

 何だか納得のいかないことも言われてた気もするけど。
 2人が妙に安心したような笑顔だったのが気になったけど。

 でも目の前の『ご馳走』を我慢出来る程、強くはない俺なのだった。






<……続きません>
<戻る>