へなちょこセリオものがたり

その87「D’ark」


びぃ――――むっ!」

 すぺぺぺぺぺぺぺ……。

「ん……?」

 何か後ろ頭に当たったような。
 と、俺が振り向くと……。

「あらあら浩之さん、ビームが当たったら倒れてくださらないと」

「……一体、何?」






「……というわけで、勧善懲悪のスーパー・ヒロインとして目覚めたのデス」

「……へぇ、そりゃご苦労なことで」

 どうも子供向けのヒーロー番組を観ていたら、その影響で変な考えを持った
らしい。
 腰には変な形のナイフと、変な銃。

 ……はっきり言って、ダサい。
 俺ならこんな格好で街は歩けんな。

「悪の秘密組織を打ち破る為、今こそ立ち上がる時なのデス」

「ほほう。その秘密組織とやらは、どこにあるんだ?」

「……目下探索中です。それが見つかるまで、とりあえず小さな悪から倒して
いこうかと」

「……つまり、俺が悪人ってかい」

 ううむ……そうか、俺は悪い人だったのか。

「おーい、マルチぃ」

「はーいっ☆」

 ぱたたたたた……。

「お呼びですかぁ?」

「おう……セリオとヒーローごっこするんだけどさぁ、マルチは正義の味方と
悪の手先……どっちをやりたい?」

「んーと、浩之さんはどっちなんですかぁ?」

 ……セリオが相手になるんだし、やっぱしマルチは俺の味方にしときたいな。
マルチが一緒なら、何とかセリオともやり合えそうだし。

「俺、悪役」

 『浩之さんと同じがいいんですぅ☆』とか答えるのが、目に見えてるぜ……
わざわざ聞くんだもんな、可愛い奴だぜマルチっ。

「……では、正義の味方さんをするですぅ」

「な、何ィ!?」

「だって……1人の悪役さんを多数で痛め付けちゃうのが、正義の味方さんの
お約束ですぅ」

 ……違う。
 そんな、『民主主義とは数の暴力である』みたいな理論展開するなぁ!

「あのな、あれは……1人では敵わない強力な相手も、みんなで力を合せれば
何とか倒すことが出来るという……」

 正義、友情、努力、協力、そして勝利。
 そんなクサいことを、映像によるメッセージとしてだな……。

「でしたら、やっぱり私はセリオさんと一緒に戦うですぅ。浩之さんはとても
手強いですからねっ、ある意味では」

 ある意味って何なんだ、おい。

「ま……マルチぃ……」

 何としてでも俺と敵対するつもりか。 
 ……よかろう、それなら俺にも考えがあるっ!

「なっ……なでなでしてやるから、こっち来いっ!」

「はうっ!?」

「きっ……汚っ! 汚いです、浩之さんっ!」

 何とでも言え、セリオ。
 俺は悪役、この程度は当たり前だっ!

「はぅー……身体が勝手にぃ〜……」

 ふらふらと俺の方に歩いて来るマルチ。
 その身体を受け止め、早速なでなでしてやる俺。

 なでなで……。

「よしよし、いい子だ」

「はにゃぁ〜……悪役万歳ですぅ」

「……あの、私も……」

 例の恥ずかし気な装備を全部外し、セリオもふらふらと寄って来る。
 ……が。

「というわけでマルチ、あいつが敵だ」

「あいあいさー☆」

 マルチは嬉しそうに手をスカートの下に突っ込んで。
 もぞもぞとしてから手を出すと、その手はマルチの頭よりも大きくなってて
……しかも、例のでっかいハンマーを握り締めていた。 

 ぢゃきんっ☆

「発動承認ですぅ☆」

 いや……もうドコにしまってるか、なんて野暮なことは聞かないけどさ。

「うっ……ゴルディオン・ハンマー……」

 明らかに狼狽するセリオ。
 わたわたと慌てながら背中……髪の毛に隠れてる辺りを探ってたけど、何も
対抗出来そうなものが見付からなかったようで。

「あぅ……こ、降参デス」

 根性もへったくれもない正義の味方だな、おい。

「……どうしますか、浩之さん?」

 別に光にするつもりもないんだろうけど……何だかうずうずしてるみたいな
マルチ。

「とりあえずやっとけ……光にはするなよ」

「はぁい☆」

「そ、そんなぁ……」

 ふふっ、悪は卑怯で非情なのだ。

「えいっ」

 やけに軽いかけ声と共に、袈裟懸けにハンマーを振り下ろすマルチ。

 ぶんっ……ばこっ。

「あ……」

 ……少しくらい躊躇しろよ、マルチ……。
 せめて、笑顔で叩くのは止めてくれ。

「……目標殲滅、みっしょんこんぷりーとですぅ」

「うむ。ご苦労」

 なでなでなで。

「えへへー」

 俺になでられながら、ハンマーをスカートの中に突っ込むマルチ。
 さっきと同じように、マルチが手を引き出した時には……元に戻ってた。

「さて……そこの正義の味方、どうしようか?」

 いいトコ打たれたのか、さっきから微動だにしないセリオ。
 ちょっと心配になったけど、セリオだから大丈夫だろ(根拠なし)。

「あのっ、やはり息の根を止めておかないと復讐されるんじゃないでしょうか」

 ……そこまではちょっと……セリオの息の根止めてどうするねん。

「とりあえず捕虜ってことで、拘束しとこうかね」

「はーい」






 ぶぅ……んっ……。

「……こ、ここは……?」

「お目覚めかな、セリオ」

「……浩之さん? マルチさんも……」

 薄っすらと両目を開くセリオ。
 だが次の瞬間、その目は大きく見開かれた。

「こっ、これわっ!?」

 じゃらっ!

「へへへ……悪と言えば、やっぱり拷問は外せないよなぁ……」

 両足は鉄パイプに固定され、開かれたまんまの状態。
 両手はベッドのポールにくくり付けられている。

「何故このチェーン拘束セットの存在がっ!?」

「何かないかと思ってお前のお道具袋の中身探してたら、あった」

 でっかい浣腸器や九尾の鞭までは、さすがに少し引いたけど。

「わっ、私のプライバシーは……」

「そんなものわない。だって俺、悪役だしぃ」

 ……漁るのはマルチにやらせたって、後で教えておこう。
 だからいいというわけじゃないけど、やっぱり女の子の恥ずかしい秘密とか
あるんだろうし……少しはセリオも安心してくれるだろう。

 ……どっちにしても、怒られると思うけど。

「ひっ、非道な……」

「もっと誉めてくれ」

「浩之さん、着終わったですー」

 ぱたたたた……。

「おっ……結構似合うじゃん、マルチ。可愛いぞ」

 マルチが見付けたものの1つ……ボンデージ・スーツ。
 セリオの袋に入ってるくらいだから、きっとマルチのにもあるんじゃないか
と思って探させたら、やっぱりあった。

「えへへー……ぴちぴちしてて恥ずかしいですけど、浩之さんに喜んでいただ
けるなら……」

「……はっ!? いつの間に私までっ!?」

 無論、寝てる間に着替えさせたのだ……マルチにな。
 俺も手伝いたかったけど、さすがに悪いと思って遠慮したのだ。

「へっへっへ……いい格好だな、セリオ」

 俺だけ普段着だから、ちょっと疎外感を感じちゃうかな。
 ま……どうせすぐにみんな裸になるんだし、別にいいか(爆)。

「さぁて……それじゃ、開始だな」

 ニヤリ。

「はぁい☆ いっつ・しょーたいむですぅ♪」

「……やっ、優しくしてくださいねっ」

 びくびくしながら言うセリオに、俺はゆっくりと近付いて行くのであった。






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