へなちょこセリオものがたり

その88「えりあはちはち・あふたー」








「浩之さん、新しい戦闘機を手に入れましたよ」

「……俺はもう乗らないって言ったろう」

 しばらく前のコト。
 マルチとセリオのオプションとして、ミニサイズの戦闘機がテスト配備され
……俺はマルチの後ろに乗せてもらったが、ひどい目にあったことがあった。

「まぁまぁ……今度は絶対に大丈夫ですから、見るだけでも」

「……見るだけだぞ、マジで」

 にっこり頷くセリオに手を引かれながら、俺は居間を後にした。






「って……俺の部屋に行くのか?」

「ええ」

 おいおい、いくら何でも家の中でジェット噴射は勘弁だぜ。

「マルチさん、浩之さんをお連れしましたよ」

「あ、はぁい。もうおっけーですぅ」

 ……何か準備してたのかな?

「入りますよ」

 がちゃっ……。

「さぁ浩之さん、F−114・『ステルスマルチ』さんデス」

「すっ、ステルス……?」

 変な言葉に、俺は首を傾げながら。
 促されるままに、部屋の中に入ると。

「……まっ、マルチ?」

「浩之さんっ、いかがですかー?」

 部屋の真ん中に、飛行機の着ぐるみを着てるマルチがいた。
 ぬいぐるみらしく丸っこくデフォルメされてて……ううっ、たまらん。

 丁度コクピットに当たる部分の腹側に顔を出す穴が明いてて、マルチの顔が
そこから見えていた。

「こっ、コレは……」

「この間は不評だったから、ちょっと主任さんに相談したんですー」

 もぺっ、もぺっ、もぺっ。

 ……非常に歩き難いのだろう。
 翼のところに腕が収まってるのか、交互に振りながら。

 尾翼のところがもぞもぞと動いて、ゆっくりとマルチが寄って来る。

「コレなら気に入ってもらえると思うんですー」

 もぺっ、もぺっ、もぺっ。

「あうっ」

 ……びたん!

「おいおい、大丈夫か?」

 前のめり……つまるトコ、うつ伏せに倒れたマルチ。

「あうう……起き上がれないんですぅ〜」

 ばたばたばたっ。

「翼をはためかせても、飛べないのか……」

 鉄の塊であるべき戦闘機が両翼をばたつかせるのは、ある意味滑稽な姿でも
ある。
 だが、それ以上に……何か可愛いぞ。

「マルチぃぃぃ」

 俺はたまらず、上から被さるようにマルチを抱きしめる。

 ぎゅっ。

 あ……今、『ぱふっ』って……。
 や、やっぱり着ぐるみはいいなあ!

「あやや、背中から抱きしめないでくださいよぅ」

「あ、悪い悪い」

 ころん。

「では、改めて」

 だきっ!

「浩之さん、すりすりしてくださいー」

「おう、任せろ」

 妙にやわやわっとしたボディを抱きしめつつ、丸い穴から顔を覗かせている
マルチの頬にすりすりと。

「えへへっ、いい感じですぅ」

「全くその通りだ……この感触、いいなぁ……」

 ううむ……人間的に問題あるとは思うのだが……いい仕事するよな、長瀬の
おっさん。

 すりすりすり。

「浩之さんっ♪」

 もぺっ。

「……ん?」

 部屋の入り口辺りから聞こえた声に、俺が顔を上げると。

「うふふっ……私は『ゼロファイター・セリオ』と呼んでくださいマセ」

 ぜっ、零戦……。

「ぷぷぷぷぷっ、プロペラぁぁぁぁぁっ!!」

 がばぁっ!

「あっ……そんなに早く回さないでくださいっ……」






 ……大空って、素晴らしい。
 着ぐるみを着た2人に押し潰されるという幸せに包まれながら、俺はそんな
思いを馳せるのであった(爆)。






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