へなちょこセリオものがたり

その89「ある朝の風景」








 尻尾、シッポ、しっぽ。
 今日の私は一味違いマス。

「おう……おはよう、セリ……」

「おはようございマス」

 ふわわん。

「……あにゃぁ、セリオさんが妙に可愛く見えるですぅ」

 うふふふふふ。
 そんな熱のこもった視線を送っても駄目ですよ、マルチさん。

「…………」

「どうされました、浩之さん?」

 ぱたぱたぱた。

「い、いや……その……何だ、その尻尾」

「触ります?」

 ふあふあのしっぽを、浩之さんに指し示し。

 狐の尻尾は、私から見てもなかなかのものであると思いマス。
 犬や猫の尻尾とは違う、ある意味高貴な印象があるのです。

 素敵な色合い、滑らかな毛艶。
 必殺・必勝の秘密兵器なのデス。

「……ありがたく」

 さわっ。

「あんっ」

 さわさわさわっ。

「ふっ……くぅんっ……」

 むむむむむ。
 自分で触っても気持ちよかったのですが、さすが浩之さんは違いますネ。

「セリオも、気持ちいいの?」

「はい」

 コレは癖になりそうデス。
 新しくフォックス・パーツを作ってくださった主任さんには、色んな意味で
感謝ですネ。

「……いいなぁ、ふわふわで」

 さわさわさわ。

「浩之さん、浩之さん」

「ん?」

「ちょっと、床に座っていただけますか?」

 浩之さんは、私のしっぽを触りながら。
 わけわかんないけどとりあえず、と正座して。

「ちょっと失礼を」

 お尻を触られてしまったら、この作戦は失敗するでしょう。
 浩之さんに本気で触られたら、立つこともままならないですからネ(ぽっ)。

 しかしこれも浩之さんの為なのです。失敗を恐れてはなりません。

「…………」

 ぱたぱたぱた。

「……いかがですか、浩之さん?」

 しっぽで、お顔をぱたぱたぱた。
 自分には出来ないのが残念です。

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「あ、あ、あぅぅぅ……私にもしてくださいぃぃぃぃぃ」

 だだだっ。

「だっ、駄目だマルチっ。俺がしてもらってるんだぞっ」

 べしっ、ぺちっ。

「そんなぁ〜」

 あら、あらら。
 お2人とも、私の為に争うのは止めてください。

 ……罪作りな女ですね、私って。
 ふっ。






 ぱたぱた、ぱた。

「ここまでデス」

「も、もう終わり?」

「朝ご飯を食べてから続きをしましょう」

 最後にもう1回、ふわんと浩之さんのお顔をなでて。
 しっぽバトル、第1ラウンドは私の完全勝利ですネ。

「うぬぬぬぬ……」

「あうう……何て顔するですか、浩之さん……私なんか、まだしてもらっても
いないですのに……」

 おやおや浩之さん、ご飯はきちんといただかないと。
 腹ごしらえを済ませてから、日向でゆっくりしましょうね。






「ぽかぽかして気持ちいいですー」

「全くよのう」

 浩之さんとマルチさん、光の中で抱き合って。
 私も抱いてもらいたいですけど、今日は我慢のよい子なのです。

 ぱたぱたぱた。

「ううっ、心地よいことこの上なしですう」

「ふわっ……鼻をくすぐるな、セリオっ」

「うふふふふ」

 お2人の傍に、脚を崩して座っています。
 お2人の顔を、楽しく眺めていたりします。

 ぱたぱたぱた。

 何て気持ちのよさそうな顔。
 私も後で、マルチさんにコレをしてもらうことにしましょう。

「ひゃー」

 ちょっと悪戯、浩之さんの首筋をさわわっ。
 だけど怒るでもなく、嬉しそうなのが嬉しいですネ。

「はうー……トロけちゃうですー」

 ふふふふふ……そのぽへーとした顔、いつまで持つでしょう。
 マルチさん、耐えてください。

 ぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱた。

「あやややや、重点攻撃なのですう」

「ぬぅ、ずるいぞマルチ! 俺にも分けろ」

「セリオさんに言ってくださいよぅ〜」

 というか、何というか。
 マルチさんをいぢめる浩之さんの気持ち、何だかわかる気がしマス。

 ぱたぱたぱた。

「…………」

 何だか、止める機会が見付からず。
 幸せそうな微笑みに、何だか止めたくないですし。
 お昼のご飯まで、ずーっとぱたぱたしていましょう。

 ぱたぱたぱた、ぱたぱたぱた。






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