へなちょこセリオものがたり

その91「磨きをかけるの」








「どーりるでるんるんくるるんるん♪ はーとがるんるんくるるんるん♪」

 きゅっ、きゅっ、きゅっ。

「お……ご機嫌真っ直ぐだな、マルチ」

「はぁい☆ いつでもドリルで特攻くん、今日も螺旋が回ってるのですう」

 きゅきゅきゅっ。

 わけわからんな、相変わらず。
 ま……日頃からしっかり道具の手入れをしておくのは、実にいいことだ。

 うむうむ、なでなでしてしんぜよう。

 なでなでなで。

「あうう、不意打ちチックでいい感じですー」

 うんうん。






「……お道具……お手入れ……なでなでっ!?」






 きゅっ、きゅっ、きゅっ。

「…………」

 は〜っ……ききゅきゅっ。

「お、セリオも道具の手入れを……っ」

 俺が声をかけかけたところ、セリオは笑顔で振り向いて。

 くるりんっ。

「ええ♪ やはり日頃お世話になっているお道具ズですから、感謝の気持ちを
込めてるのデス♪」

 瞳をきらきらさせて、何かうずうずしてて。
 ちょっと恐くなって、他の場所に行こうとしたけど。

「…………」

 きらきらっ☆

「……いい子だな、セリオ」

 なでなでなで。

「ふふふっ、ありがとうございマス」

 純粋すぎる瞳の輝きに、俺は勝てなかった。






 きゅっ、きゅっ、きゅっ。

「セリオ……今度は何を磨いている?」

「あ、浩之さん……日頃私達を雨風から守ってくれている家屋なのですから、
やはり感謝の気持ちを込めて……とりあえず窓からかな、と」

 …………。
 何だろう。
 いや、言ってることは非常にいいことなのだが、セリオが言うと何故か裏を
勘繰ってしまうのだ。

「……そうか、ご苦労様だ」

 なでなでなで。

「……あ」

 嬉しそうに俯くセリオ。
 ……純粋にその『感謝』とやらで動いてくれているのならば、俺もどんなに
嬉しいことだろうなあ……。






 きゅっ、きゅっ、きゅっ。

「……またかよぉ」

「あら、浩之さん。もしかして……私に会いたくて、さっきからわざと私の傍
に来てくださるんですか?」

 きらりんっ☆

 いや……どちらかと言うと、お前が俺の行く先々に出没しているような気が
するんだけど。

「そういうわけじゃないんだけどさ」

「そ、そうなのですか(しゅん)」

「……で、今度は?」

 何だか引っかかるけど、とりあえず聞いてみた。
 また『感謝』とか言うんだろうけどなぁ。

「ええ、日頃の感謝を……」

 ううむ、セリオにしては珍しくワンパターン……もう少しヒネりのあるネタ
が欲しいトコだな。
 何を企んでるにしろ、あまりよくない傾向だ。

「そっか。そんじゃ、頑張れよな」

 俺は素っ気なくその場を離れてみることにした。
 きっと相手にされなければ、自分のネタがマズいことに気付くだろう……。
 さぁセリオ、この壁を見事打ち破ってみせろっ!

「あ……」












 こんこん。

「……浩之さん、私です」

「ん? セリオか、入れよ」

 がちゃっ……。

「失礼します」

 読んでいた雑誌をベッドに伏せ、俺はセリオに向き直る。

「どうかしたか?」

「……いえ、別に……」

 そう言う彼女は、明らかにすねているように見えた。
 間違いなく、さっきのことが起因しているのだろう。

「ん? 何だよ、言ってみろよ」

「……あの……私、もう飽きましたか?」

 ……何でそういう結論になるんだよ。
 なでなでせずに、素っ気なく立ち去ったからか?

「何で?」

「……私の相手なんか、つまらないのでは?」

「……ふぅ」

「……っ!」

 びくっ。

 ……俺の溜め息1つで、こうも怯えるものか。
 俺の態度を、ここまで気にするものか。

 何か、いつものセリオって感じじゃ……ないな。

「セリオ、来い来い」

 俺は自分が座っているトコの隣を指し、手招きする。
 セリオは少し戸惑いまがらも、言われた通りにぽふっと座る。

「あのな、お前……何か企んでたろ?」

「はい? と、申されますと……」

「お前とのエンカウント率が妙に高かった上に、行動が少し不審だった」

「…………」

 む、黙り込みやがった……図星か?

「あ、あの……マルチさんがなでなでしてもらってるのを見て、私もご褒美を
いただきたかったのデス」

「ほほう」

「ですから……」

 『なでなでしてください』って、たった一言でいいのに。
 それだけで、満足するまでなでなでしてやるのに。

 やっぱ、恥ずかしいのかな。
 ……本当は、俺がわかってやらないと駄目なんだよな。

「言ってくれればいいのに」

 なでなで。

「ですが、それでは『ご褒美』とは違うものになってしまいマス」

 セリオは、頭の上の俺の手を握り締め。
 それはつまり……なでなで拒否。

「ふむ……なら、どうすればなでさせてくれる? 俺としても、セリオの相手
をするのに飽きられたと思われているのは嫌だぞ」

「…………」

「お前の可愛いところ……まだまだ見足りないんだ」

「……では、磨かせてください」

 かくん。

 け、結局元に戻るのかよう。

「そう言われてもなぁ。今日だけでお前、家の中のものはほとんど磨き終えた
だろ?」

「い、いえっ……まだ、一番重要なものが残ってマス」

「重要?」

 何だろ。
 うちには高価な置物なんかは置いてないしなぁ。

「……ま、いいや。行こうぜ、これから磨くんだろ?」

「よろしいんですネ?」

「ん? ああ、何か問題でもあるのか?」

「いえ……それでは参りましょう、善は急げデス」

 とたたたたた……。

 おいおい、そんなに急ぐなよ。
 その磨きたいものっつーのも、まさか逃げたりしないだろ。












 かっぽーん……。

「……気付くべきだった……」

 わしゃ、わしゃ、わしゃ……。

「日頃の感謝の気持ちなのデス」

「ああ……俺の方こそ、ありがとな……」

 何て言うか。
 そもそも、素直に言ってくれればいいだけなのになぁ……。

 てなことを考えながら、セリオに身体中磨かれている俺なのであった。






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