へなちょこセリオものがたり

その96「空見て歩こう」








「あ、セリオぉ」

「はい?」

「今、暇? よかったら散歩でも行こうぜぇ」

「は……」

 セリオは、にっこり笑って頷きかけたけど。
 不意に顔を伏せ、首を左右に振った。

「……申し訳ありませんけど……それは出来ません……」

「そっか、忙しいんなら仕方ないよな」

「……いえ、時間はあるのですけど……今の浩之さんとは、行けません……」

 ……何?
 俺、何か気に入らないことでもしたのか?

「そ、そんな……どうしたんだよ?」

 いつもなら、2つ返事で了承してくれるのに。
 とっても嬉しそうに、綺麗な笑顔を見せてくれるのに。

「……ごめんなさいっ」

 たたたたたっ……。

「あ……」

 セリオ……一体どうしたんだよ……?






 とぼとぼと、とぼとぼと。
 ちょっと苦しい胸を押さえながら、マルチの元へ。

 ま、マルチならきっと一緒に来てくれるよなっ。
 セリオだって、たまたま虫の居所が悪かっただけだろうし……マルチに相談
して、ご機嫌直してもらえるように何とか……。

「お〜いっ、マルチ〜」

「は〜いっ☆」

 ……洗濯物、たたんでた。
 もしかして、また断られるかもしれないな。

「マルチぃ、散歩に行こうと思うんだけど……一緒に、どう?」

 ちょっと、どきどき。
 ま……また断られたりしないよなっ、うん。

「あ……はいっ! 丁度終わるところで……」

 にこぉっ☆

「そっ、そうかっ!」

 よかった。
 そう、安堵の溜め息を漏らしたのも束の間。

「……あう」

「え?」

「ごっ、ごめんなさい……やっぱり、行けません……」

 がーんっ!

「な、何でだよ? セリオにも断られたけど、どうしてなんだよ!?」

 マルチまで、ご機嫌斜めなのか?
 俺……2人の機嫌を損ねるような真似、覚えがないぞ。

「いっ……言えませんっ……」

 顔を背け、辛そうに唇を噛み締めるマルチ。
 つうっ、とその頬を涙が伝うのを見た時……俺の足は、回れ右していた。

「そっ、そうかっ! 嫌だってーんなら、無理は言わないぜっ! 1人で散歩
に行ってくるから、セリオにもよろしくなっ!」

 努めて明るく言いながら、俺はその場を走り去ったのだった。

 だだだだだ……。






「はぁ……」

 マルチもセリオも、一体どうしたんだろ。
 さっきまでは、いつも通りだったのに。

 何かの噛み合わせがずれてしまったかのような。
 俺には2人が、さっぱりわからなかった。

「2人とも、俺が誘った途端に……」

 今日何度目かの溜め息を吐きながら。
 俺は1人、とぼとぼと公園へ向かうのだった……。






「……嫌われたのかなぁ」

 そんなこと、考えたくなかった。
 でも、あいつらの反応を見ると……俺のことが、嫌いになったとしか……。

 だって、2人共だぜ?
 どちらか一方ならまだ……ご機嫌斜めなんだな、とか思えるんだけど。

「……くぅ……っ」

 胸が、苦しい。
 こんなに辛いのは……久しぶりだな……。

 この苦しみを止める方法、知ってる。
 でも、それは……まかり間違えば、俺はきっと立ち直れなくなる方法。

 それは、諸刃の剣。

「また……笑ってくれるかな……」

 決して、難しいことじゃないんだけど。

 それは……家に帰ること。
 2人が笑って迎えてくれるなら、俺はきっと……。

 でも。
 もし……そうじゃなかったら……?

 怖い。
 家に戻るのが、怖い。

「……ふぅ」

 駄目だな。
 もっと自分を……2人を信じなきゃ……。
 大丈夫、きっと大丈夫だよ……。






「……浩之? どうしたの?」

「あ……雅史か」

 サッカーボールを抱えて、雅史が歩み寄ってきた。

「どうしたの? 何だか悩んでるみたいだけど……」

「いや、何でもないさ。ちょっと散歩しに来ただけだし」

 ふーん、と何気に俺を眺める雅史。
 何だよ、今日も練習かぁ? 真面目な奴だなぁ。

「浩之、一言だけ言わせてもらってもいいかな?」

「ん?」

 ま、まさか雅史まで……?
 何だよ、俺はそんなにみんなに嫌われるようなことしたのか!?

 ……俺が緊張して見守る中、雅史はちょっと息を吸い込んで……言った。

「……社会の窓が、開いてるよ」

「あ」

 それだ。






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