へなちょこセリオものがたり

その97「ででんのでん」








「おっでんおでん、ぐっつぐつぅ〜♪」

 てなわけで、今晩はおでん。

「……セリオはどこ行った?」

「あれれ? さっきまでそこにいらしたんですけどぉ……」

 うむむ、もうすぐおでんが解禁(笑)されるっつーのに。
 早く戻って来いよ、先に食っちゃうぞ。

「……もう、いいでしょうか」

「おうおう、待ちかねたぜっ」

 ちゃんちきちゃんちゃん。

 テーブルで、行儀悪く茶碗を打ち鳴らしている俺。
 マルチはそんな俺を見て微笑み、おでんの鍋をテーブルまで運んで。

「セリオさん、ちょっと探して来ますね」

「おう、急いでくれっ!」

 腹が減ってる状態でお預けってーのは、何とも辛い。
 美味しそーなおでんが、目の前でほこほこ湯気を立てているとなれば尚更。

「はぁい」

 と、マルチが歩き出そうとしたその時。

「……その必要はありません」

「おっ、来たかセリ……おおおっ?」

「…………」

 何を思ったか、着ぐるみ装着。
 今日の献立に合わせたのか、おでんぐるみだった。

「セリオさん、だっさださですぅ〜☆」

 笑顔で言うな、マルチ。
 ……ほら、セリオも泣きそうになってるし。

「わっ、私とてこんなものは着たくなかったのですが……」

「んじゃ何で着てるんだよ」

 自ら望んで着たんじゃないのか?
 今日は頼んだ覚えはないぞ、俺(笑)。

「……どんな『ぐるみ』でも最低1回は着ないと、次のモノが支給されないの
デス」

 よく見ると、首からラジヲ体操のカードみたいなのをぶら下げてて。
 『長瀬』ってハンコが押してあったりするから、おっさんがどこかに隠れて
チェックしているんだろうか。

「嫌な決まりだなぁ……」

 おでんかぁ、俺ならまず着られないな。っていうか恥ずかしくて人前なんか
出られん。
 セリオの勇気っつーか根性に乾杯だ。

「というわけですので、しばらくお付き合いを」

「おう。任せな」

 いつものことだ、別に今更何ともないし。

「マルチには、何かないの?」

「……私の分は、『ちょさくけん』の問題で見送りになったそうですー」

 マルチは別に、あんまり残念そうでもなかった。

「どんなのだったの?」

「ええと、お団子が3つ……」

「わかった。もういい」

 見送って正解だったと思うぞ。

 ……まぁ、おでんと団子で串繋がりか。

「ふーん……」

 じろじろとセリオを見つめる俺。
 最初は座って眺めてたけど、段々近くに寄って行って。

「ふぅ〜ん……」

「あ、あの……恥ずかしいですから、あまり……」

 結構マジで恥ずかしがってる。
 何かいいぞ、その表情……いじめてるみたいで何だけど。

「えーと、蒟蒻に卵に竹輪か……定番だなぁ」

 頭のトコが、三角の蒟蒻。真ん中に明いた穴からセリオが顔を出している。
串のつもりか、天辺にトゲみたいなのがあったり……。

 胸から腰にかけては卵が覆っていて、竹輪が太ももを包んでいる感じだ……
お尻のトコから串の下の方が伸びてるのが、見ようによってはアレだ(爆)。

 ちなみにどのパーツも、俺が一抱えする程の大きさで。
 マルチじゃ、こうはいかないよな……ぷくくっ。

「わ、笑わないでください……」

 無理を言うな、なかなか間抜けで面白い格好だぞ。

「……でも、何かが足りなくないか?」

「ほえ? からしでしたら、ここに」

 マルチが、冷蔵庫からからしを出してきた。
 確かにソレはおでんに必須だが、セリオにからし塗って食うわけにもいかな
……いや、それはそれで結構……後でやってみよう。
 『からしっ、そんなトコにからしがあああん』とか……『いい声で鳴けっ!』
って感じだぜ(爆)。

「……浩之さん、足りないものとは一体?」

 ふふふ、よくぞ聞いてくれた。

「おでんと言ったら、やっぱり大根だよな」

 さわさわさわっ……。

「…………」

 俺は、セリオのすらりと伸びた脚をさすりながらそう言った。






 ……で。
 次の瞬間には、意識がなくなっていた。












「おーい……セリオぉ、悪かったってばぁ」

「……ぐつぐつと煮込んで差し上げマス」

 風呂場の天井から吊るされている俺……後頭部が結構痛い。
 目が覚めた時にはセリオのおでんぐるみを着せられていて、その上天井吊り。

 ちなみに、さっきからぼこぼこと泡立つ湯船の真上にいるもんで……ちょ、
ちょっと息苦しいかなっ。

「冗談だってばよぅ。いい脚してるぜ、セリオっ(きらりっ☆)」

 ちょっと歯を光らせてみたりしたけど。

「いい味が出るといいですネ」

 ぷいっ。

「ひいいいいいいいいっ!」






 ……その後俺がどうなったかは、敢えて秘密だ。






<……続きません>
<戻る>