へなちょこセリオものがたり

その100「ルナティック・パーティ」








 ぱくぱくぱく……。

 団子って、こんなに美味しいものだったのか。

「浩之さん、お茶はいかがですか?」

「おう、さんきゅ」

 マルチとセリオが手作りのお団子を頬張りながら、俺達は月見をしていた。






「……しかし、人間とは妙なものですネ」

「んぁ? 何が?」

 ぱくぱくっ。

「月のクレーターが成す模様を、うさぎに見えるなどと……」

 うん、それは俺もそう思う。

「日本人は、信心深いんだよ」

 ぱくっ。

「それと同時に、ロマンチストも多いんだろうな」

「……くさっ」

 おのれ、折角いいこと言ってるのに。

「ん、そういやマルチは?」

「あら……そういえば、先程から姿が見えませんネ」

 団子のお代わりでも用意してくれてるのかな。
 ん〜、気が利く奴だぜっ。






 たたたたたっ。

「じゃーんっ☆ 浩之さんお好みの、うさぎパーツなんですぅ♪」

 セリオと2人で、ぼーっと月を眺めていたら。
 うさぎマルチが部屋に走り込んできて、そんなことを言う。

 ま、今日は十五夜だし……うさぎでも何ら不思議はないな。

「「…………」」

 ううむ、薄い胸でのバニースーツっていうのがたまらん。

「うふふふ……月の女神もかくやという私の美しさに、声も出ないんですねっ」

 いや、美しいっつーより可愛いってゆーんだと思うぞ。

「……呆れてるんですヨ」

「がっ、がびーんですぅ!」

 ごろごろごろごろ〜……っ!

「違う違う。呆れてなんかないぞ」

 俺は変な格好でのた打ってるマルチに手招きし、隣に座らせる。

「可愛い可愛い。大好きさ」

 だきっ……なでなで。

「はやぁ……思いがけないお言葉、ありがたく思いますぅ」

 な、何か今日は言動が変だぞお前。

「くぅっ……浩之さんの○リコンっ気につけ込んで……」

 聞こえてる聞こえてる。
 いや、否定はしないけどさ(爆)。

「かくなる上は、私もっ!」

 だだっ!

「あ、行っちゃった」

 なでなで。

「きゅぅ〜」

「ソレ、何?」

「うさぎさんの鳴き声なのですう」

 ……そういう声だったのか?
 まぁいいけど。






 たたたたた……。

「お、セリオが戻って来たぞ」

「ベタなパターンで、うさぎパーツでも着て来るんでしょうかねぇ」

 お前が言うなよ。






 たたっ。

「……浩之さんっ」

「おう……って、セリオ!?」

「あ、あうぅ……」

 セリオは、何故か黒猫にくきうパーツを着けていて。
 今度こそ俺達は、ろくに声も出なかった。

「あうう、ちょっと予想外ですー」

 全くだ。
 折角、両サイドをうさぎさんに囲んでもらえると思ったのに(爆)。

「……月、関係あるのか?」

「ええ。某月の王国の王女の使い魔の黒猫にちなんで……」

 余程お前の方がロマンチストやん。
 っていうかソレ……何故かセーラー服とか関係してないか?(笑)
 月なのにさ。

「ひっ、卑怯ですっ!」

 マルチが突然立ち上がり、叫ぶ。

「浩之さんの猫耳ふぇちを利用した、狡猾な作戦ですぅ」

 ぐさっ。

「お、お前ら……」

 言っていいことと悪いことがあるぞ。
 お前達がその格好をするからこそ、俺も我慢出来なくなるのであって……。

 ……しまった、否定になってない(爆)。

「「浩之さんは、黙っててくださいっ!」」

 とくとくと、2人に俺の気持ちを説明しようとしたら。
 うさぎ&黒猫のステレオで、俺発言が禁止されて。

「これは、浩之さんだけの問題ではありません」

「そうですぅ! これは私達の闘い、当方に迎撃の用意ありなのですう」

 ……はい?
 何で覚悟完了してるの?

「あ、あのー……」

「ほほう……一度、マルチさんとは決着を着けなければならないと思っていた
のですヨ」

「ふふふふふっ、東方は紅く燃えているのですぅ……」

 ……人の話を聞いてくれぇ。

「あのさぁ、3人で仲よくしようぜ……ほれ、月が綺麗だぞう」

「ふふふふふ……」

「うふふふふのふ、ですぅ……」

 ……何か、やっぱりマルチには緊張感が感じられないのな。

「「いざっ! 味勝負っ!」」

「何でやねんっ!!」

 ぴょーんっ!

 ……と、俺はそれだけ突っ込むのが精一杯で。
 次の瞬間には、床を蹴って飛び込んできた2人に押し倒されていたのだった。

 ばたばたばたっ……。

「私が先にいただきますっ!」

「では、私はこっちをっ!」

 ……『味』って、そっちの意味だったのかい。












「素敵でしたよ、マルチさん……あの舌使いには、学ぶところがありマス」

「セリオさんも、あの指の動きはさすがでしたぁ」

「しくしくしくしく……」

 俺……みんなで仲よく、お月見したかっただけなのに。
 何でこんなことに……一体、何故なんだよぉぉぉぉぉ……。






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