へなちょこセリオものがたり・番外編

「タイタニックは永遠に」







 事の始まりはセリオと一緒にこたつで金曜ロードショウを見ていたときだっ
た。

「浩之さん、このかっこいい人は誰ですか?」

「どれどれ、どいつだよ。おっ、このドイツ人かっ?」

「いえ、この英国人です」

 俺の高尚かつハイセンスなギャグを無視して、セリオは画面上の一人の男を
指さした。

 その男は世間をにぎわせている、あの男だ。やつの名はデカプリオっ! 俺
の永遠のライバルだったりする(爆)。でも確かあいつアメリカ人じゃなかっ
たっけ?

「そいつは俺のライバルのデカプリオっていうやつだ。子供の頃はよく一緒に
遊んだもんだぜ」

「でも私のデータベースには浩之さんとの接点はないのですが」

 ぎくっ、そういえばこいつ、衛星のサポートを受けられるから、たいていの
情報は知っているんだった。だが、これくらいで引き下がる俺ではないっ!

「あのな、セリオ。世の中には人知の及ばないふし〜ぎな事が沢山あるんだっ。
でかちゃんと俺が幼い頃のまぶだちだって言うことも、その中の一つだって事
だ」

 俺は胸を張っていう。このはったり、最近うそつき志保菌が俺にも感染して
きたかなあ。気を付けようっと。

「はい、メモリに記憶しておきます」

 そう言って素直にセリオは頷く。うんうん、いい子だっ。

「よしっ、素直でよろしい、んじゃご褒美だっ!」

 そう言って俺はがばっとセリオに覆い被さる。セリオは少し抵抗する素振り
を見せたが、ふっと力を抜く。まあ、そのあとは、言わずもがなだ。何だか刹
那的だな、最近(笑)。





“言わずもがな”の後(爆)、

「あ、あの、浩之さぁ〜ん」

 セリオが甘い声をだす。その唇を見ながら、俺は返事をする。

「ん?」

「あのデカプリオさんの出ている映画が今大ヒットしてるじゃないですか?」

「おうっ、“タイタニック”っていうやつだろ」

「あの映画、見に行きたいです」

 おっ、と俺は思った。滅多に自分から何か主張することの少ないセリオがこ
ういう風にいうのは珍しい。

「どうしてだ?」

「デカプリオさんのこと、もっとよく知っておきたいからです。浩之さんの昔
の友人さんがどんなに頑張っているかも見てみたいですし」

 そう言ってセリオは頬を寄せてくる。セリオの程良い柔らかさの頬が胸にあ
たる。何だか落ち着いてきてしまう。細かいことは明日でいいか。

 俺はどちらかというと、その、事が終わった後眠くなる方なので、その日は
さっさと眠ってしまった。





 んでまあ次の日、

 俺はさっそっくセリオとタイタニックを見に行くことにした。そういやセリ
オとこうやって映画館へ行くのは初めてのような気がする。

「セリオ、おまえ映画館って知ってるか」

「はい、映写機によって暗闇の中のスクリーンに映像を映し、同時に音も鳴ら
すことによって、臨場感溢れる演出を可能にした館のことです」

 ふふっ、俺は鼻で笑う。

「甘いなセリオ。おまえの言っていることは一義的な意味にすぎないっ!」

 指でびしっとセリオを指す。セリオは首を傾げているが、俺は続ける。

「まあ、詳しいことは映画館に入ってからだ、いくぞ!」

 そう言ってセリオの手を引っ張り、映画館へと入った。





 座席について、ポップコーンを買ってくる。とりあえず映画館はこれだろう。
定石通りの展開だ。だが、セリオにはさらに強烈に教えておこう。

「なあセリオ、まずおまえの知らないこと第一だ」

「はい」

「映画館では必ずポップコーンを食う。これは映画法第六条第二項で決まって
いるのだっ。ちなみに映画法って言うのは、正式文書になっていない、影の日
本国法律なのだっ」

「知ってますよ」

 セリオから思いもよらない返事が返ってくる。

「なぬっ!」

「長瀬主任が映画のデータベースにそう入力していました」

 あのオヤジ、一体どういうデータベースの作り方をしてるんだ?

 俺は長瀬主任の性格を一段と疑いつつ、適当に言った映画法のことの引っ込
みがつかなくて、ちょっと決まりが悪い。

 そんな俺を、セリオはうんうんと頷いて澄んだ目で見つめる。うっ、ちょっ
と罪悪感(笑)。

 セリオは特に最近、俺に全信頼を置いていてくれる。それは俺がセリオを心
から信頼するようになったから、と思うのは俺のうぬぼれだろうか。






 それからしばらくして、映画館にブザーが鳴り響き、映画が始まる。

 ストーリは、まっよくできた二流ラブストーリって感じ? でもセリオは初
めての映画館ということもあるのだろうか、しきりに感動してひっくひっく言
っていた。

 セリオがこんなに涙もろいとはしらなかったぜ。

 俺はセリオの方をちょっと引き寄せてやった。セリオは少し体をふるわせた
が、すぐに体を俺に預けてきた。う〜〜ん、可愛いやつ。その時、俺の頭にち
ょっとした考えが浮かぶ。

「セリオ、んじゃ第二だっ!」

「は、はい」

「こういう感動のシーンでは、恋人達はみんなキスをする……っていうかしな
ければならないんだ」

 よくもまあ、ここまでいえる物だと自分でも感心するのだが、とりあえずそ
んなことを言ってみる。

「……は、はい」

 消え入りそうな声でセリオは答える。その照れた横顔に、俺は軽く唇を当て
た。次の瞬間!



ぷしゅーーーっ



 大きな音を立てて、セリオのアンテナ付近からけむりっというか蒸気が出て
くる。どうやらまたいつものオーバーヒートがおきたらしい。やれやれだ。

「お、おい……。感動シーンとの相乗効果で最近おきてなかったオーバーヒー
トおきちゃったか」

 だが、セリオの返事はない。完全にオーバーヒートしちゃってて、復帰まで
にはしばらくかかりそうである。

 とりあえず俺はその蒸気を止めると、セリオを引き寄せる。






 俺はオーバーヒートをしたセリオ肩で支えながら、映画の最後に流れるスタ
ッフロールを見ていた。とりあえず席を立つ観客達の余りの多さに、俺はセリ
オを抱えて出るのは最後でいいかなと思ったのだ。

 そんな真っ赤になったセリオの横顔をみつめるていると、つくづくセリオの
存在が、自分の中で大きくなったことを知る。

 セリオには俺が必要で、俺にはセリオが必要だった。

 いつまでもセリオといられたら……

 俺はそんなことを思いながら、セリオと一緒にいつ終わるとも知れないスタ
ッフロールを眺めていた。







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