へなちょこセリオものがたり・番外編

「未確認BOY」








 しとしと、しとしとしと……。

「あー……雨が鬱陶しいなぁ」

 俺が窓から空を見上げると。
 どんより曇った暗黒空間、見ているだけで気が滅入るぜ。

「なればこそ、なればこそっ」

 わたわたと俺に抱き着こうとしているマルチの額を、懸命に向こうへと
押し返している俺。
 こんなにじめじめしてるってのに、何でこいつはこんなに元気なんだよ。

「だぁっ、何とかしてくれぇ!」

 さっきからずーっと、わたわたわた。
 いい加減に俺まで汗ばんで来たぜ。

 ぱたぱたぱた……。

「……何かお困りですか、浩之さん?」

 と、掃除機を抱えてセリオ登場。
 助かったとばかりに、三角巾をした彼女に救いを求めたり。

「おお……こいつ、何とかしてくれよぅ」

「……了解しました」

 何だか不機嫌ぽいな、セリオ。
 やっぱりこいつらでも、こんな天気は好きくないのだろうか。

「マルチさん、浩之さんもお困りですから……」

「むむっ、こんなにらぶらぶな私達の仲を引き裂くですかー!?」

 静かにマルチの肩を抱き、セリオは彼女を宥め始める。
 でもしかし、マルチはぎんっとセリオを睨み付けるだけで。

「そんな人は、馬に蹴られてメンテナンス・レベル3を受けるがいいですっ!」

「う、ウマっ!?」

 あー……マルチもマルチで機嫌が悪いみたいだし。
 ったくもう……セリオがキレる前に何とか止めないと、またオオゴトになり
そうな予感。

「な、なぁセリオ……」

「……」

「あ?」

「浩之さん、承認をお願いします」

 ……何を?
 とか思いながら、とりあえずセリオを宥めようとする俺。
 が、その前に彼女は背中……髪の下に、手を差し入れてしまい。

「なっ、何をするっ!?」

 ずざざっ。

「ふふふっ……マルチさんはウマがお好きなようですから、ならばそれなりに
お相手して差し上げようかと」

 なっ、何ィ!?
 まさか、髪の下からサラブレッドが出て来ることはあるまいが……ならば、
乗馬鞭とかハミとか出して、マルチに使うのかっ!?

「ま、まぁ……酷いコトするんじゃなければ、許す」

「了解」

 ニヤリ。

 うを。
 し、しまった……見切りを過ったか?

「では……」

 するり。

「このウマでお仕置きをば……」

 そう言って彼女が取り出したのは。
 薄暗い部屋の中でもきらきらと輝く、髑髏水晶。

「ウマ……?」

「はい。あんあいでんてぃふぁいど・みすてりあす・あにまるの略称で……」

 いや、そりゃ知ってる。
 だけどな。

「あっ、あうあうあう……黒い服の人達に連れて行かれるのは嫌なのですう」

「どっちも違うッッ!」

 すぱぱーんっ!

「「はうっ」」

 一閃させたスリッパから立ち上る煙を、ふっと吹き。
 2人がずるりと崩れ落ちる前に、セリオの手から水晶の髑髏を受け取る。

「ったく……どこから仕入れたんだ、こんなもん……」

 うを。
 噂には聞いていたが、本当に継ぎ目や切削痕なんかないんだな……。

「うぁ……長瀬主任の研究室には、ソレ系のモノがごろごろしていますが……」

 そっ、ソレ系っ!?
 しかも、ごろごろっ!?

「その髑髏も本来は衛星に搭載されているものでして、数あるスペアスカルず
のうちの1つであり……」

「あー……もういい、大体わかった」

 何かの本で読んだな、それ……水晶髑髏は超高効率の増幅装置で、レーザー
発振装置なんかと組み合わせて世界を獲ろうと画策した輩がいたとか……。

 恐るべし、来栖川……っていうか長瀬のおっさん。

「あ、私も持ってるですよっ」

「何ィ!?」

 舌打ちしながら俺から髑髏を受け取り、いつの間にか用意していたムギ球や
電池と一緒に髪の中に突っ込むセリオ。
 髑髏でブーストするなら、ムギ球でも攻撃力十分だったってことかよ……。

「えとですね、『されこうべ』ではないんですけど……」

 そんなセリオは気にせずに。
 マルチは服の下に手を入れ、お腹の辺りをごそごそと。

 ぱくんっ。

 小さな音がして、服の隙間から眩い緑色の光が。

「……もういいってばよ」

 あーもう。
 こいつらって、オーバーテクノロジーの塊かよ……。






 結局、その場は上手いことうやむやに。
 ……そう考えると、セリオの行動も『正解』のうちの1つだと考えられた。

「時にセリオ……いい加減うぜぇよ、この天気」

 俺の頼みに、彼女は頷いてセンサーに手を当てる。

「少々お待ちを」

 ちーっ……かたかたた、ちんっ♪

「……はい、特に雨量が不足している地方はないようですね」

 続いて彼女は、頭上に手をかざしてくるくると円を描き。

「…………」

 その後すぐに、鬱陶しかった雨音も止む。
 しばらくして、窓には陽の光が射し込んで来て。

「おお、晴れた晴れた」

「もう……自分のわがままで、滅多に天候を左右しないでくださいな」

 どの口が言ってるんだよ、をひ。

「はいはい……っと、汗がべたべたするなぁ」

「ということは、お風呂ですねっ!?」

 ぺてぺてぺっ、ぽふーん。

 突き放されまいと考えたのか、わざわざ俺の死角から走り込んだマルチ。
 背中に彼女の重みを感じつつ、セリオの方に目をやると。

「……さっぱりしたら、一緒に日向ぼっこしましょうネ」

 にこっ。

「何だよ、お前だって止ませたかったんじゃねぇか」

 っていうか、お風呂は決定事項ですか。

「いえ……全ては浩之さんの為に」

 ぬう、そしてやっぱり全部俺のせいかッ!

「はーやーくすーるのーですーぅ」

 マルチは背中で、でろーんとし始めて……力抜かれると、重く感じるんだよ
なぁ。
 こりゃ急がないと大変だぁ。

「はいよっと」

 ずーり、ずりっ。

 彼女を引きずりながら風呂場へ向かう俺、ちょっとしてからセリオの足音も
聞こえて来る。

「おーい、早く来いよぉ」

「はーいっ♪」

 ぱたたたた……。

 さてさて。
 今日もまた、気持ちよーくさっぱりするとしますかね……。






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