へなちょこ綾香ものがたり・番外編

「未確認GIRL」








「というわけで、今晩は鍋物に決定」

「ちょっと待ったぁ! 何が『というわけ』なんだよ?」

 夕暮れ時。
 いきなり俺の部屋に来ていきなり言い放つ綾香。
 そろそろ夕食かなぁと思っていたところ、丁度こいつが来たわけで。

 っていうか今日は鯨肉だって言ってたじゃん! 楽しみにしてたのにっ!

「反論は認めないわ。もう準備出来ちゃってるから」

「そんな、晩飯は鯨肉フェスティバルって約束じゃぁ……」

 いや、フェスティバルっつっても単に吐く寸前まで食うってだけだが。
 なかなかイケるんだぜ、鯨肉。

「浩之……鯨みたいに、暗い海の中が好きなのかしら……?」

 ごきぼきん。

 いえ。
 そんなこと、決してございません。

「ま、まさかぁ……」

 綾香の拳がぎりぎりっと握り込まれたのを見て、慌ててそう答える俺。
 何も関節鳴らさなくても……下手すりゃマジで沈められるな、こりゃ。






「あれ? みんなは?」

「あー、何か用事があるってさ」

 用事?
 ぬう、この俺に何も言わずにお出かけとは……何かめっちゃ寂しいぜ。

「綾香は一緒に行かなかったのか?」

「ん。今日は私がご飯当番だから」

 なるほど。
 わざわざ俺の為に、みんなと行かずに残ってくれたってわけか……。

「そっか」

 ううっ、すまないねぇ。
 お前のその気持ちが、何だかとっても暖かいよ。

「ほらほら、寂しがってないで……ご飯にするわよ」

「お、おう」

 さて、と……鍋物って言ってたが、一体何なんだろうな。
 などと考えつつ、席に座ろうとしたら。

「……うりゃぁ!」

 ぐいん。

「げふっ!?」

 何故か突然、襟首を極められて。
 俺が何が起きたのか理解出来ずにいると、綾香が速攻で俺の服を脱がせよう
としているみたいで。

 ごそごそ……。

「よ……っと、外れないわね……」

 かちゃちゃっ。

「あ、気にしないでね……当番だから、私」

 何のだ。

「気にするっての」

 かちゃっ、ずるりん。

「ゐやあん」

 ロクに抵抗しないまま、どんどん剥かれて行く俺。
 自分でも冗談かと思うような悲鳴を出してみたりしたのだが。

「きっ、気色悪い声出さないでよ……」

 苦笑いしながら、俺のズボンを足元まで下ろす綾香。
 くそう……いい度胸してんじゃねぇか。

「なら、お前が言えっ」

 Tシャツは自分で脱いでしまった俺。
 最早トランクス以外、身にまとっているものはない。
 そしてお返しとばかりに、俺も綾香の服を脱がしにかかって。

「いやーんっ♪」

 うむ、やはり悲鳴は若い娘のものに限るぜっ。

「ほれ……ほれほれっ!」

 1枚、2枚と剥いて行くと。
 すぐに現れたのは、真っ白いレースな下着姿っ!
 恥ずかしそうにその身体を隠そうとしている様が、どーにもたまんねぇ。

「はぁはぁ、綾香ぁ……」

 何がたまんねぇって、俺がたまらん。

「やっ、ちょっとぉ……ここじゃ駄目よぉ」

 何ィ!
 ならば、ドコならいいと言うんだっ!?

「まぁまぁ、いいじゃないかいいじゃないかっ」

「駄目って言ったら駄目だってば」

 たたた……。

 ……っと、憤る俺を放ってどこかへ歩いて行ってしまう綾香。
 肩透かしを食らったような気分になりつつも、俺は彼女の後を追うのだった。






 そんなこんなで……焦らされつつも、綾香の後ろを歩いて行くと。
 いつの間にか、風呂場の前に立っていて。

「あいよっ! 藤田浩之、一丁お届けっ♪」

 そう言って、風呂場の扉を開ける綾香。
 何のことかと彼女の顔を見ると……にんまりと、悪戯っぽく笑っていて。

「おおっ、やっと届いたのですぅ〜♪」

「……なかなか手間取ったようですネ」

「…………」
 茹で芹香になるかと思いました
 湯船の中には、3人の娘さん。
 待ち望んていたかのように、俺を見つめていて。

「何なんだ? 一体……」

「何と言われましても、浩之さんをみんなで食べてしまおうという計画でして
……」

 あ?

「ほらほら、あれが鍋。今日は浩之鍋よ」

 と、綾香が指差したのはバスタブ。
 ……なるほど、鍋かい。

「んー……まぁ、いいけどさ。変に遠回しにしなくても、いつでも言ってくれ
たらいいのに」

 ちっちっち。

 白く綺麗な指先を、わざわざ俺の眼前でふりふりする綾香。
 ちょっと困った表情な辺り、何とも可愛い感じだ。

「だって浩之、一辺にするって言ったら逃げそうなんだもん」

 ……へ?
 一辺に……って、まさか……?

 背筋に薄ら寒いものを感じた俺。
 自分でも気付かないうちに足が逃げ始めていたが……出口は綾香がしっかり
確保していやがって。
 かと思ったら、マルチ達も湯船から身を乗り出して来る。

「美味しそうですー」

「あ……うぁ……」

 たらりと額から流れた汗は、頬を伝って首筋へ。
 それは果たして、風呂場の熱気のせいだけだろうか。

「それじゃ姉さん、食べる前のご挨拶どうぞっ☆」

 こくん。

 やたら嬉しそうな綾香に軽く頷き返し、先輩は俺に向かって両手を合わせ。

「…………」
 それでは皆さん、いただきます
 ぺこり。

「「「いっただっきまーすっ♪」」」












 ……そして、しばしの後。
 静まった風呂場の中で動いているのは、俺ただ1人。

「……俺も、甘く見られたもんだなぁ」

 バスタブの縁やらバスマットの上に横たわっている、4人の白い肢体。
 荒い息を吐いてはいるが……その表情はみんな、とても幸せそうで。

 そんな彼女達に向け、ぱんっと顔の前で両掌を合わせる俺。

「……ご馳走様でした、っと」






<……続かないのよ>
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