へなちょこ芹香ものがたり

その2「彼女は、魔女」








「んー……ふぁぁぁぁ……」

 朝か……。

 すぅ、すぅ……。

 ん?
 何だか、妙に身体が動かない……。
 両手、両足共に全く動かせない。

「おいおい……」

 左右の腕には来栖川しすたぁず、足の方にはメイドロボずがしっかりと抱き
着いていた。

「おーい、みんなぁ……朝だぞぉ」

「んみゅー……? おはようございまふぅ……」

 お前、ロボットのくせに少し低血圧気味なのな。

「おはようございマス……実は先程から起きてましたケド」

 ぬぅ、なら俺の足を早く放せ。

「んーっ……何だか身体がだるいわぁ……」

 昨夜何もしなかったからか?
 となればこの後、ナニかあるのは間違いないな。

 ……むくっ。

「…………」
 …………
 先輩が、無言で起き上がり。

「おはよ、先輩」

 ぼーっ……きょろきょろっ。

「…………」
 んー……
 あれ?

 ……ぱたふ。

 すぅ、すぅ……。

「あー、姉さんってかなり低血圧なのよ。朝にはすっごく弱いの」

 なるほど。
 ……それでも俺の腕、放してくれないのな。

「よっと……」

 先輩の腕の中から、自分の腕をそっと抜き取り。

「まぁ今日は休みだし、ゆっくり寝かせといてあげような」

「そーそー。みんなで朝風呂に入って、寝汗を流しましょ♪」

 嘘こけ。
 寝汗を流すどころか、別の汗とか汁とか流すんだろうが(爆)。






「あーっ……本当、いいお湯だったわぁ……♪」

「全くですー」

「……右に同じデス」

 朝から疲れた。
 ったくお前ら、ほわ〜んと幸せそうな雰囲気漂わせやがってから。

「全く浩之も、姉さんに変に遠慮しちゃってぇ……私達の時みたいに、ぱくっ
と速攻で食べちゃえばいいのに」

 そんなこと出来るか。

「お前なぁ……まるで俺が節操なしみたいじゃねぇか」

「あら、そのままじゃない」

 ぬううう。
 ここで強く否定出来ない自分が悲しい。

「ともかーくっ! そういうのはお互いの気持ちってもんが大事なのであって、
俺はマルチもセリオも綾香も大好きだからこそ……」

「ふふっ……わかってるわよ」

 ちゅっ☆

「こっ……こらぁ! からかったのかぁ!?」

「きゃぁ、浩之が怒ったぁ〜っ☆」

 ばたばたばた……。






 綾香を追い疲れて、俺が自分の部屋に戻ろうとしたら。

 とたとたとた……。

 あ、先輩。
 目が覚めたんだな。

「…………」
 おはようございます、浩之さん
「うん、おはよ」

「…………」
 何だか昨夜よりも、げっそりしてませんか?
「え? 昨夜よりげっそりしてる? い、いやぁ……」

 こっ、答えに詰まるよなぁ。
 言うなれば家族団欒の時間にTVでえっちなシーンに突入して、お父さんが
急に新聞を広げたり、お母さんが突然お茶を入れ直しに行ったりする……丁度
そんな感じかな(どんなだ)。

「…………」
 ……みんなと、したんですね……
 ちょっと寂しそうな、それでいて怒ってるみたいな先輩。

「したんですねって……いや、確かにしたけど……もっと別の言い方が……」

 ……ぷいっ。

 とたたたた……。

「あ、先輩……」

 行っちゃった。
 やっぱり先輩みたいなお嬢様って、俺みたいにえっちな男は嫌いなんだろう
な……。

 ……綾香は特別か。
 あいつ、お嬢様って感じしないし。












 自分の部屋で横になって雑誌を読んでいると、誰か来た気配がした。

 こん、こん。

「おう、入られい」

 マルチとセリオはお買い物……さすがに5人分ともなれば、買い出しも大変
だし。
 で、綾香は日課の1つのロードワーク。
 となると、残るは。

 がちゃっ……。

「やっぱり先輩だ」

 ってゆーか、当然のことだから『やっぱり』も何もないがな。

「…………」
 浩之さん、ちょっとよろしいですか?
 あ、何かいつもより暗い表情。
 さっきのこと、まだ怒ってるのかな。

「ど、どうかしたの? 先輩」

「…………」
 どうもこうもありません
 どうもこうも、って。
 ……何か、やっぱり怒ってる?

「あ、あの……俺、やっぱり先輩の嫌いなタイプなのかなぁ」

 それ以外に、先輩が怒る理由がわからない。

「…………」
 そんなことありません
 ふるふる。

「違う? だって先輩、俺のことで腹立ててるでしょ?」

 こく。

「ごめんね。何でだかわからないけど、気に障ったんなら謝るよ」

「…………」
 浩之さんが謝る必要はありません
 へ? 謝る必要はない?
 あの、話が見えないんですけど……。






「…………」
 謝るのは、私の方ですから
 謝るのは、私の方です。
 そう言われても、俺も困る。

「…………」
 いきなり押しかけて、ご迷惑をおかけして……
「何だよ先輩、迷惑なんかじゃないってば」

「…………」
 でも、私のことを嫌ってるから邪魔なんですよね?
 いや、だから嫌いでもないし邪魔でもないってば。
 何でそんなこと考えるかなぁ。

「…………」
 じゃ、どうして何もしてくれないんですか?
「手ぇ出さないのは、それが当然でしょ? 相手の気持ちもわかんないのに、
勝手に自分の気持ちを押し付けるわけには……」

 ずいっ。

「…………」
 『勝手』じゃなければ、いいんですね?
「えっ? あ、うん……相手の気持ちがわかれば、その限りではないけど」

 俺の気持ちっつーのも大きい要素だが。
 って先輩……まさか俺が先輩を放って、マルチ達だけ可愛がったことを根に
持ってるのかっ?

「…………」
 浩之さん、聞いていただきたいことがあります
 先輩は、俺の隣にぽふんと座り。
 小さく手招きして、耳を貸すように促した。

「ん?」

「…………」
 ……私、浩之さんを……お慕い申し上げてました
「あ……あー、先輩……」

 やべぇ。
 何がって、俺がヤバい。
 耳の傍で、こんなコト囁かれた日には。

「いっ、いきなり何を言うんだよ……」

「…………」
 だから、お願いです……
 あ……そ、そんな目ぇ閉じて、上向いて……。
 こっ、これはっ!

「あのさ、先輩っ……お、お、俺……」

 まままままだ今のうちなら、何とか我慢が……。

「…………」
 私の全てを、あなたに捧げさせてください……
 あ……ああっ!!

「おっ、俺も好きだっ! 先輩っ!!」






「ただいまですぅ〜」

 ぱたぱたぱた……。

 遂に俺が、先輩の細い身体を抱きしめた時。
 階下から聞こえた、聞き慣れた足音。

「あ……」

 マルチ達、もう戻って来ちゃったのか。

「ごめん、先輩……俺がもたもたしてたから」

 身体、少し震えてる……先輩、頑張って勇気出してくれたんだろうに。
 ……さすがにあいつらがいたら、やり難いかな。

「…………」
 いえ、そんなことないです
 ふるふるっ。

「ん……また、今度の機会にね」

 こんな約束するってのも、ちょっと変だけど。

「…………」
 それは駄目です。今日は月の欠け具合がバッチリで最適な日ですから
 ふるふるっ。

「……へっ? 今じゃなきゃ駄目? 今日は月の欠け具合がバッチリで最適な
日だって? ……何に最適なの?」

 も、もしかしてわざわざうちに来る日付けを調整したりしてたんだろうか。
 俺に、抱かれる為に……?

「…………」
 それとも……私のせいでみんなと喧嘩になるから、駄目でしょうか?
「……大丈夫だよ、あいつらのことなら。仲よくやってるよ」

 うーん……やっぱり傍目から見ると、男が1人に女が3人っつーのは不安定
に見えるのだろうか。

「…………」
 じゃ……私、ここにいてもいいんですか?
「うん、勿論。俺も含めてみんなで歓迎するぜ」

 拒絶されるのが、怖いのだろうか。

 俺に拒絶されたら。
 俺に受け入れられても……マルチやセリオ、綾香に拒まれたら。

 ……あいつらは、そんなことしないよ。
 俺はあいつら本人じゃないけど……自信を持って言える。

 だって、みんながお互いのことを好き合っているから。
 何でも話せる友人であり、恋敵でもあり。
 そして何より俺達は、もう家族なんだから。

 俺を中心として、その周囲を囲むような関係……その中に入る為の資格とか、
そんなのは難しいことじゃない。
 そう、きっと必要なものは……たった、1つだけ。
 それさえ持っていれば、あいつらだって受け入れてくれる。

 あいつら自身がそうだったように。

「…………」
 なら……ずっと浩之さんの傍にいます
「うん……ずっと、みんな一緒だよ」






 ゆっくりと、先輩の身体を覆う布を取り去りながら。
 次第に露わになっていく白い肌……遂に下着姿になった先輩の隣、寄り沿う
ようにして手を這わせる。

「俺、姉さんっていないから……先輩に、憧れてたのかもしれない」

「…………」
 私も、弟がいないですから……憧れなのかもしれませんね
 ぎゅっ……。

「先輩、いいの? 綾香にも言ったけど……俺ってこの通り、気が多いよ?」

「…………」
 それも含めて、私の好きな浩之さんですから
 ぎゅ。

 『それも含めて、私の好きな浩之さんですから』……そう、言ってくれた。
 こんな俺が、好きだと言ってくれた。

「先輩……目、閉じて」

 こくん。

「優しくするからね、先輩」

 ちゅ……。

 それを皮切りに動き出す、俺の身体。
 先輩を怖がらせないよう、痛がらせないように……そして、気持ちよくして
あげられるように……。












「…………」
 何か、まだふわふわ飛んでるみたいです……
「ははは、ちょっと先輩にはキツかったかな?」

「…………(ぽっ)」
 ……とても、よかったです
「……よっしゃぁ」

 未だにぽーっとしている先輩……まぁ、いつもこんな感じだと言えばそんな
感じだけど。
 そんな先輩と、しっかり手を繋いで階下へ降りると。

「あーっ! 浩之さん、芹香さんと一緒だったんですねっ」

 おたまを構えて、ちょっと嬉しそうに俺の傍に走って来るマルチ。

「今まで一体どちらに? セリオさんと、一生懸命探してたんですよぉ〜」

 ぱたたたた……ぽふっ!

「ん? ああ、ずっと俺の部屋にいたぞ」

 なでなでなで。

「……ほえ? 浩之さんのお部屋には、誰もいませんでしたけど」

「……何?」

 間違いなく俺と先輩は、ついさっきまで俺の部屋で……。

 ……と、1つだけ心当たり発見。
 俺が、傍にいる先輩を見ると。

「…………」
 バレちゃいました
 ぺろっ。

 ちょっとだけ、申し訳なさそうに。
 可愛く舌を出している、先輩の姿があったのだった。






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