へなちょこ芹香ものがたり

その3「魔女の調薬」








「…………」
 元気が2倍になる薬です、さぁどうぞ
「嫌だよ……」

 先輩は、変な色の液体が入ったビーカーを手にしていて。
 『元気が2倍になる薬』って言われてもなぁ……。

「…………」
 もしまた失敗しても、一生懸命介抱させてもらいますから
 こくこくこく。

「うっ……いや、それは魅力的なお誘いでもあるんだけど」

 もし前みたいにぶっ倒れたら、先輩が介抱してくれるのかぁ……。
 ……まぁ、命が危険になることもないだろうし……。

「わかったよ、飲むよ」

「…………」
 ありがとうございます
 先輩から50ccビーカーを受け取り、軽く臭いを嗅いでみる。
 先輩は実験が出来る喜びからか、ちょっと嬉しそうだ。

「んーと、これは全部一気? それとも、1回1口とか?」

「…………」
 今回も1口で1回分です
 1口か。
 また調子に乗って一気飲みするトコだったぜ。

「んじゃま、お味拝見っと……」

 ごくっとな。






「…………」
 ど、どうでしょうか?
「いや、どうって……まだ何も……」

 ……どくん。

「お?」

 どくん。

「…………」
 浩之さん、どうかしましたか?
 どくん、どくん。

「き、効いてきたみたい……」

「…………」
 ……なるほど、効果発現は結構早いですね
 小さなメモ帳を取り出し、何やら書き込んでいる先輩。
 ……結構冷静なのな、先輩。

 どくん、どくん、どくん!

「あっ……あああああああ……!」

 くっ、苦しいっ!
 息が……身体が熱いっ!

「…………」
 頑張ってください、浩之さん
 なでなで。

「せっ……なでられてもっ……」

 どくん、どくん、どくん……。

「ああああああっ!!」

 俺の中で、何かが弾けた感じだった。






「……何よ? 今の叫び声はぁ」

 あー……綾香かぁ……。

「あら、浩之じゃない。姉さんに手ぇ出そうとして、返り討ちに遭ったの?」

 いや、手は出したけど……いやいやそうじゃなくて、薬が……。

「違うって」

「…………」
 元気が2倍になる薬を飲んでもらいました
「へっ? 2倍? ナニが?」

 お前はソレばっかかい。

「ほっほぉ〜……どれどれ」

「おおおおっ、おい綾香! 待て待てぃ!」

 俺の静止の声も虚しく、ズボンが簡単に開かれて。

「……うわぁ」

「…………」
 あら……
 ん? 何か変な反応が……。

「どうかしたか?」

「……どうもこうも……」

「…………」
 ごめんなさい、予想外の効果が出たみたいです
 ぺこり。

 ぬぅ、謝られても。

「一体どうしたんだよ……」

 俺が身を起こして、自分自身を確認すると。

「……あの……先輩……?」

「…………」
 でもとりあえず成功は成功です
 こくこく……ぐっ。

 確かに2倍、だった。
 いや……大きさとかじゃなくて、数が2倍。

「『成功です』じゃねぇ! どうすんだよコレぇぇぇ!!」

 親指立ててどうする、先輩っ!?

「…………」
 効果は長くは続かないはずなので、夜には元に戻るはずです
「持続性はないから、今日中に元に戻るってさ」

「あ、何だそうなの」

 安心した。

「……そういや先輩、さっき介抱してくれるとか言ってたっけなぁ」

 びくっっ。

「あらら……予約済みなのね」

 んじゃ終わったら呼んでね、と綾香は素早く部屋を後にする。
 残された先輩、綾香の背中を追うように手を伸ばしていたが……ドアが閉じ
られると、恐る恐る俺の方を振り向く。

「せ・り・か・さんっ♪」

「…………」
 ……やっ、やっぱり私ですかっ!?
 ふるふるふるふるふるっ。

「……嫌なの?」

「…………」
 ごめんなさい、遠慮させてくださいっ
 こくこくこくっ。

 あーあ……涙まで滲ませちゃって……。

「んじゃ、別にいいよ。代わりに他のみんな呼んで来てね」

 こんな面白そうなモノ、みんなで楽しむに限るからな(爆)。
 ええと、一辺に2人ずつかぁ……いやいや、1人に2本ってのも……おおう、
何て素晴らしいんだっ(核爆)!

「…………」
 え……? でも、それは……
「ん? だって先輩、嫌なんでしょ? ちょっと寂しいけどね」

 自分でやっておいて、その言い草。
 実際のトコ、俺は泣きたいくらい寂しかったけど。

「だから先輩、終わるまで居間にでもいなよ」

「…………」
 ……嫌です
 ふるふるふるっ。

「え?」

 とてて……ぽすっ。

「…………」
 ごめんなさい、浩之さん
 ごめんなさい、って……。

「先輩……」

「…………」
 ちょっと、びっくりしただけなんです
 ちょっと、びっくりしただけ。

 そうか……そうだよな。
 俺のことが嫌いなわけじゃないんだよな、先輩?

「ありがと、先輩……でも、いいの?」

「…………」
 ……勿論です
 ……こくん。

「……へへへ、それじゃ今日は2倍のサービスだよ」

「…………(ぽっ)」
 期待しちゃいますから、ね
 俺は頬を染めた先輩の肩に手をかけ、そして……。












「……はぁ……」

「…………」
 いい子、いい子
 シーツで半身を隠しながら、俺の頭をなでてくれる先輩。

「早さまで2倍かよ……っ」

「…………」
 気にしないでください
 いや、気にするってばさ。

「せ、先輩……ごめん……」

 最初こそ、いつもの2倍先輩を悦ばせていた俺だったが。
 いつもよりみょ→に早く、限界が来てしまったわけで……。

 そういや『持続性がない』とか喋ってた気も……。

「…………」
 私は、浩之さんと一緒にいられるだけで幸せなんですから……
 なでなで。

「うっ……うわぁぁぁん、先輩ぃぃぃっ!!」

 ぽふっ!

「…………」
 若いうちはよくあることらしいですし、また今度頑張りましょう
 なでなでなで……。

 ううっ、うっ、うっ……情けないっつーか何というか。
 先輩の薬って……怖い……。






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