へなちょこ芹香ものがたり

その5「魔女の体操」








「…………」
 んーっ……
 ん〜っ、と床にうつ伏せになっている先輩。
 何だか知らないが、さっきからころころ転がってばかりいる。

「先輩さ、何やってんの?」

「…………」
 体操です
 体操です、と言ってまた転がり始める先輩。

 ころころん。

 んー……俺がマルチとごろごろ転がるのと一緒に見えるんだけど……。

「先輩、その体操にはどんな効果があるの?」

「…………」
 まず、体力増進
 ころん。

「体力増進……うっ、嘘だぁ」

「…………」
 更に顔面筋肉が引き締まり、お肌がすべすべになります
 ころころん。

「そんな、美顔美肌効果までッッ!?」

「…………」
 後は、かくかくしかじかです
 ころころころん。

「余分な脂肪を燃焼させ、引き締まった身体にぃ? テキストはバインダー式
って言われても……」

 ま、それはそれでもいいか(笑)。

「先輩、俺も転がるぜぇぇ!」

「…………」
 ……ということは決してないのですよ、ちっちっち
 ……ということは決してないのですよ、ちっちっち?
 どうでもいいけど先輩、舌を鳴らすのも苦手みたいだな。

「…………」
 何となく楽しいんです、これ
「何となく楽しいからって……楽しいの?」

「…………」
 ええ、それはもう意外な程に
 こくこく。

「なら、やっぱり一緒に転がるよ」

 楽しさ分けてくれよっ。
 てい、ごろごろごろっ。

「…………」
 豪快ですね、浩之さん
 ころころん。

 ごろごろっ。

「あ、衝突コースっ」

 ぽむっ。

「…………」
 きゃ
「先輩、痛くなかった?」

 先輩は、頭を左右に振ろうとしたけど。
 ぴったり6秒考えた後、小さく縦に頷いた。

「…………」
 ……ちょっと、痛かったです
「そっか、ごめん」

 ふるふるっ。

「痛いの、ここ?」

 俺は、先輩の肩をなでなで。

「…………」
 違います
 ふるふるっ。

「じゃ、こっち?」

 背中をなでなで。

「…………」
 痛いのは、そこだけじゃないんです
 ふるふるっ。

「…………」
 私の全身を、優しく包んで……ぎゅって、してください
「そっ、それは」

 『ぎゅって、してください』。
 そんなこと言われたら……嬉しいじゃないか(爆)。

「…………」
 そうしてくれないと、許してあげませんから
「そうしたら許してくれるって? ……んじゃ、ま」

 ぎゅっ。

「…………(ぽっ)」
 あっ
「許して、くれる?」

「…………」
 まだ駄目です
 ふるふるふるふるふるっ。

「そんじゃ、もう少し抱きしめていちゃうぞ」

 俺、離れなくなっちゃうかもしれないぞ?

「…………」
 もっともっと、ぎゅってしてください
 ……こくん。

「うん、そうする」






「先輩、暖かいね」

「…………」
 浩之さんも、暖かいですよ
 こくん。

「体操、よくやるの?」

 ふるふるっ。

「今度から、俺と一緒にやらない?」

「…………(赤っ)」
 ……ええ、休憩の後にまた再開しましょう
 ……こくこく。






<…………>
<…………>