へなちょこ芹香ものがたり

その9「魔女の昼下がり」








「…………」
 …………
「お? 先輩、何やってんだ?」

 ご飯も食べ終わった昼下がり。
 居間の窓辺に座り込み、先輩が空を見上げていた。

「…………」
 雲を見ていました
「雲かぁ」

 先輩に言われ、俺も空を見上げてみる。
 そこには様々な形、大きさの雲がゆっくりと流れていた。

「先輩はいつものんびりさんだなぁ」

「…………」
 浩之さんはのんびりしないんですか?
「……そうだな、たまには俺ものんびりしてみるか」

 俺は先輩の隣に腰を下ろし、ぴったり先輩に身体を寄せる。
 先輩も嬉しそうに、俺の身体にもたれかかって来て。

「雲っていいよなぁ。何も考えてなさそうで、どこへでも飛んで行けて」

「…………」
 そうですね
 きゅ、と先輩が俺の手を握る。
 柔らかいその手に包まれ、その温もりを感じながら。

「でも、俺は雲にはなりたくねーな」

「…………」
 どうしてですか?
「だって、雲になったら先輩と一緒にこう……ごろごろ出来ないだろ?」

 言いながら俺は、先輩を床に押し倒して。
 少し驚いている先輩の唇に、軽く口付け。

「…………」
 そ、そうですね
 くぅ、先輩の何と可愛いことか。
 思わず身体が勝手に動きそうになっちまうぜ。
 頑張れ、俺の理性。

「あーもう、先輩が可愛いから身体がうずうずするぜ」

「…………」
 うずうずですか?
「ああ、うずうずだ」

 俺は先輩の身体を抱きしめ、床の上を数回転。
 俺の理性のせめてもの抵抗らしい。

「…………」
 私もうずうずです
 先輩も俺の身体に腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。

「このうずうずが堪らないんだよなぁ」

「…………」
 なかなか癖になりそうですね
 あー……先輩ったら、可愛いってばないぜ。
 俺は先輩を抱く腕に更に力を込める。

 ああ、愛しの先輩。
 可愛い先輩。
 俺の……俺だけの、先輩。

「先輩」

「…………」
 はい?
「俺、雲より先輩を眺めていたいな……」

「…………」
 浩之さんたら……もう
 ぽっ、と頬を赤らめて。
 そんな仕草も可愛くて。

「ほらほら、俺のことは気にせず空を眺めてくれよ」

 先輩は、しぶしぶ窓の外に視線を送る。

「…………」
 私だって、浩之さんを眺めていたいです
 俺は、その言葉を聞かなかったふりをして。
 ちょっと恥ずかしそうな先輩を、心行くまで眺めていたのであった。






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