へなちょこセリオものがたり

その162「待ったなし!」








 たまにはセリオと将棋なんか打ってみた。
 当然ながら、賭けるもん賭けてな。

「……その角、待った!」

「待ったなしデス」

「う〜む」

 俺は最大的危機な状況に陥っていた。
 この王手飛車取りの場面でどう打つか。
 飛車は見捨てるとしても、あそこに金でも置かれたらそのまま詰みに繋がる
ことだろう。
 ……いっそ王を見捨てて、残った駒で王の敵討ちでもするか?
 いや、セリオの的確な戦略の前では各個撃破されるのが落ちだろう。
 その前にそんな俺ルールは認めてくれそうにないし。

「わかった、俺の負け。投了だ」

 両手を万歳して、降参の意思を示す。
 セリオはにこにこ笑いながら、手の中の俺から取った駒をじゃらじゃらと。

「うふふ……もう1回やりますか?」

「いや、何か勝てそうにないからもういいや」

 正確なロジックを持った相手程、嫌な相手もいない。
 それにセリオのことだから、どんな手を打ってもあらゆるパターンから類推
して最良の手を返して来るだろう。

「では、次はチェスでもいたしますか?」

「いや、チェスは俺知らねぇ」

 教えてもらっても、またすぐ負けそうだし。

「で、では……♪」

「ああ、約束通り好きなだけ抱いてやるさ」

 ぽっ、と頬を染めるセリオ。
 俺はその肩を抱き、俺の部屋へと連れて行った。






「ところでさ」

「はっ……はい?」

「勝負事には滅法強いのに、ベッドの中じゃてんで弱いのな」

 既に3回勝負して、俺の白星2つ。
 今は次回戦に向けて休憩中だ。

「それには理由があるのデス」

「ん? どんな?」

「……浩之さんに抱かれているだけで、とても幸せだからデス」

「…………」

 ちょっと、胸にきゅんと来た。

「セリオっ!」

「はい?」

「すぐ始めるぞ!」

 そう言って、俺はセリオの身体をひっくり返しお尻をむんずと鷲掴みにする。

「あっ、あのっ?」

「今日は久々に後ろの穴でやってみようかぁ!」

「ちょっ……それは待ってください、いや止めてください」

「待ったなーし!」

 慌てるセリオは放っておいて、俺は俺の欲望の為だけに腰を進めた。

 ずぬん。

「ひあぅ」

「ほうれほれ、お前も嫌いじゃないことは知っているぞ!」

「あ、あひぃ!」






 ……今回は引き分けだった。
 セリオはベッドにうつ伏せになりながら荒い息を吐き、俺はその傍に座って
呼吸を整えていた。

「うっ、うっ……待ってと言いましたのに」

「悪い、あんまりセリオが可愛くてさ」

 きらん、と歯を輝かせながらセリオの傍に横になる。
 するとセリオは、ゆらりと起き上がってお道具袋の中をごそごそやって。

「でも、悪くなかったろ?」

 むしろよかったのであろう。
 俺は自信を持ってそう考えていた。

「……ええ」

 だが。

「よかったデス……浩之さんにも、たっぷりお礼をしなければいけませんネ」

 妖しく笑うセリオ。
 その腰には、男性の張り型付きの凶悪なベルト。

「ま、待った! いや待って! お願い!」

「待ったなし、ですよネ?」

「ひぃぃぃぃ!」






 ……ずぬん。






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