へなちょこセリオものがたり

その164「嘘吐きさん」








「浩之さん、ここにマルチさんのぱんつがあります」

「うむ」

 どこから見ても、3枚1000円の安売りぱんつだ。
 しかし中国産のそれは、機能性・耐久性も去ることながら可愛らしく真ん中
に添えられた小さな赤いリボンが着用者の可愛らしさを引き立てる。

「これがどうかしたか?」

 つんつん、と突付いてみる。
 これと言って特に仕掛けはないようだが。

「実はこれはマルチさんの脱ぎ立てほやほやぱんつなのデス」

「むお?」

 それを聞いて、俺の心の中の何かが動いた。

「欲しいですか? マルチさんは只今、シャワーの最中ですが」

「うんうん」

 くれくれ、と俺はぱんつに手を伸ばす。
 が、セリオはそれをついっと俺から遠ざける。

「何だよ、くれるんならさっさとくれよ」

「ふふふ、ただで差し上げるわけには参りません」

「なでなでか? だきだきか? 何でもいいからさ、マルチの温もりが消えて
しまわないうちに早く!」

 勿論その後は被ったり舐めたり引っ張ったりして色々するつもりだ。
 マルチに見付かったら怒られそうだから、シャワーを終える前に済ませない
といけない。
 時間がないのだ。

「何でもいいですか……わかりました、それではどうぞ」

 ぽいっ。

「はむっ」

 俺は放り投げられたぱんつを、まるで棒切れをくわえる犬のようにキャッチ
する。
 ……そして数瞬後。

「む! これはマルチのじゃない!? セリオのだ!」

「あら、よくおわかりで♪」

「馬鹿野郎、この俺がマルチとセリオの下着を間違えたりするもんかよ」

 舐めてもらっては困る。これでも毎晩2人を可愛がっているんだ、匂いや味
などから分析して一瞬で判断出来る。

「この嘘吐きめ! 俺の純情を踏みにじったな!?」

 どこが純情かはさて置いて。
 セリオは何故か嬉しそうに、突然スカートをゆっくりとまくり上げる。

「うふふ……でも、脱ぎ立てほやほやなのは嘘ではないデスよ?」

「……ぶふぅ」

 のーぱん。
 セリオはのーぱんだった。
 つーとこれは、紛れもなく脱ぎ立てほやほやセリオぱんつ!

 いやしかし、今は目前にのーぱんセリオがいる。
 ……どっちを取るべきか!
 ぱんつの温もりが消えるのを黙って眺めるか?
 それともセリオをこのまま押し倒すか?

 俺が悩んでいると。
 セリオはついっと歩み寄って来て、俺のズボンを脱がせようとする。

 じーっ、ずるずる。

「とまぁ、本来嘘の吐けない性格の私ですが」

 嘘こけ。

「今回は実験用パーツを取り付けた為に嘘を言えるようになりました」

「何だよそれ」

 気が付いたらトランクスまで引き下ろされて、俺の下半身は素っ裸状態。
 そこへセリオがしゃがみ込み……おもむろに顔を上げて、口を開いて見せた。

「これデスよ、これ」

「うわ」

 舌が2枚に増えていた。
 なるほど、嘘を吐くのは2枚舌ってわけか。

「しかし、私はこのパーツに嘘を言う以外の用途を見出しました」

「も、もう何となく想像付いたけど一応聞いておこうか」

「うふふ……」

 はむっ。

「あん」

 思わず腰が引ける。
 が、セリオはそれを許さず無理矢理引き寄せて。

「ひまひひらでほほうひふふほ、ほへもふははひいほへははひはほ」

「うわぁ! その状態で喋るなぁ!」

 ……ちゅぽん。

「……2枚舌でご奉仕すると、とても素晴らしいのではないかと」

「あ、止めないでむしろもっと続けて」

 俺の声が、とても情けなく部屋に響く。
 ああ、実に情けない。

「うふふ……」

 そんな俺の情けなさを楽しむかのように、セリオは再び俺の腰へ顔を埋めて
行った。






 恐るべしは2枚舌。
 称えるべきは2枚舌。

 何でこんなパーツが作られたのかなどとは、最早考えようとも思わず。
 俺はそのまま、2枚舌が与える快楽の虜と成り果てるのであった。






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