へなちょこセリオものがたり

その165「べったり」








「ささ、浩之さんどうぞ」

「おう」

 マルチからお椀を受け取る。
 今日はお汁粉、作っている最中から甘い香りがぷんぷんしていたぜ。

「お餅はとりあえず2つですぅ」

「沢山ありますから、どんどんお代わりしてくださいネ」

「おうよ」

 ○ルピス始め、甘いものには目がない俺。
 早速ぞるぞると、熱々のお汁粉をすする。

「うん、美味い」

 むぐむぐ。

 餅もいい感じのとろけ方だ。
 こんな美味いお汁粉が食えるなんて、俺は全く幸せ者だぜ。

「マルチさんもどうぞ」

「ありがとうございますぅ〜」

 マルチもテーブルに座り、お汁粉を食べ始める。
 俺も自分のを食いながら、それを観察していると。
 熱さにびくっと舌を引っ込めたり、餅をびびょ〜んと伸ばしたりしてお約束
通りに奮戦中。
 しかし、マルチは見ていて飽きないよなぁ。

「ふぐっ!?」

「む」

 餅を喉に詰まらせたか。
 さすがはマルチ、お約束を全てこなすとは。
 いやいや、落ち着いて見ている場合じゃない。

「セリオ、水! 水!」

「はいはい、只今……って浩之さんじゃないんですか」

「俺がマルチみたいなどじ踏むわけないだろ」

「ふむむっ、ふぐっ!」

 マルチは何か文句を言いたそうだったが、言葉になってないので無視した。

「とりあえず私達は窒息することはないので……どうしましょう?」

「おいおい、放っておくわけにも行かんだろ」

 セリオはマルチの口の中を覗き込んで。

「あらあら、喉の奥でお餅がべったり」

「見てないで何とかしてくれよ」

「もがもが」

 マルチは最初こそ慌てていたものの、落ち着きを取り戻して来た。

「水飲んでも取れそうにないか?」

「はぁ、べったり見事に塞がってますから……そのうち取れるのを待つしか」

 そうか。

「それとも浩之さんがご褒美をくださるなら、今この場で何とかしましょう」

「ご褒美っても、なでなでくらいだぞ?」

「もがー」

 ……もがもが言うマルチも、これはこれで可愛い。
 放っておいてもいいかもしれない、とか思った自分が少し嫌になった。

「十分です」

 そう言って、セリオはマルチの口をこじ開けた。
 正確に言うと、マルチの顎関節をばきっと外した。

「もがっ!?」

「お、おい!」

「よいしょっと……」

 セリオはマルチの口の中に手を突っ込み。
 餅のようなものを掴んで引っ張り出すと、俺にそれを見せて微笑む。

「はい、取れました♪」

「……無理矢理取れとは言ってないぞ」

「あら、無理矢理取るなとは言ってませんよネ?」

 くう、ああ言えばこう言う。
 とかセリオと睨み合っているうちに、顎を押さえながらマルチが抱き付いて
来た。

「はぐぐ〜」

「よしよし、痛かっただろ」

 せめて、と考えてマルチをなでていたら。
 マルチは顎を持ち上げて、がきんと音を鳴らして関節をはめ込んだ。

 ぷしゅー……。

「セリオさん、酷いのですぅ〜」

「……平気なのか? マルチ」

「はい、私達はどこの関節でも自由に外せますから」

 それって何か嫌だな。
 ……そういや前にセリオも関節外したことあったっけ。
 心配して損した。

「それで、この食べかけのお餅はどうしますか? 浩之さん」

 ああ、それ忘れてた。

「マルチが食っとけ」

「はいー」

 そしてマルチは、セリオの手にぱくっと食らい付く。
 んで。

「……もがっ!?」

「「…………」」

「もがもがー」

 まさかとは思ったが、ここまでお約束だとは。
 もう付き合い切れん、と俺はセリオとげんなりした顔を見合わせて。
 マルチのことは放っておいて、随分と冷めてしまったお汁粉をすすり始める
のであった。






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