へなちょこセリオものがたり

その168「立てない? いや立ってるけど」








 たまにはセリオとお買い物。
 ちなみにマルチはセリオに縛られて押し入れに突っ込まれている。

「今度の休みは、お前が縛られることになるだろうなぁ」

「浩之さんが縛ってくださるのなら……」

 ぽっ。

 そんな会話をしながら、仲よく手なんか繋いじゃったりしていると。

「あっ」

 ずべし。

「お? 珍しいな、セリオがコケるなんて」

「へ、変ですね……オートバランサーは正常作動中で……」

 立ち上がろうとすると、へたりと崩れ落ちてしまう。

 足元を見ても、小石などのコケ要因は見付からない。
 もしかして、マルチに影響されてセリオも遂にどじっ子に目覚めたか?

「あら……自動診断の結果、左脚部関節に異常が認められました」

 地面に座り込みながら、そんなことを言う。

「おいおい、こないだメンテに行ったばっかりだろ」

「ええ、その時は特に異常はなかったのですが……自動修復が始まっています
けど、完了まで2時間程かかる模様です」

「ま、故障じゃしょうがないな。立てるか? 家まで肩貸すぜ」

 買い物は中止か……少し残念だけど、セリオの大事には代えられない。

「いえ、その……この状態で歩くと、残った右足もすぐに故障してしまうかと
思われます」

「怪我した足をかばって歩いてると、残った足も怪我しちゃうって言うあれか」

「ええ。ですから、大変申し訳ないのですが……おんぶしていただけますか?」

 申し訳ないとは口で言いつつも、ちょっと嬉しそうな表情で。
 ま、たまにはセリオに頼られるのも悪くない。

「よし、んじゃおぶされ。お尻とか太ももとかに手が触れるかもしれないけど
勘弁な!」

「うふふ……少しだけならお触りOKデスよ」

 のしっ、と1人分の重み。
 ゆっくり首に回される、細い腕。
 俺はセリオの身体をしっかり支えると、立ち上がって。

「そういやセリオをおんぶするなんて、珍しいかな」

「そう言えばそうですネ」

 うふふ、とセリオは頬をすり付けて来る。
 天下の往来ですることではないが、ほっぺが柔らかいから許す。

 とか何とか考えていたら。

「あ、そう言えば浩之さん」

「ん?」

「私、今日はブラジャーをするのを忘れていました」

「何ぃ!?」

 言われてみれば、今日の乳揺れはなかなか見事だったような。
 言われてみれば、背中に当たる胸の感触も妙にダイレクツな。

「ちょ、ちょい待って……」

 俺は堪らずしゃがみ込む。

「あら、どうしました? 立てないのデスか?」

 くすくすと笑いながら、セリオ。

「もしかして……立てない理由でもおありで?」

 くすくす。

 ぐりぐりむにゅむにゅと押し付けられる、柔らかな胸。
 シャツを通して、ちょっと固くなり始めた乳首の感触まで背中で感じ取れる。

「お、お前……わざとやってるだろ」

「はて、何のことでしょうか?」

 くすくす。

「あ、そうだ」

 俺は中腰になると、周りの目も気にせずひたすら走る。

「あの、どちらへ?」

「俺に任せろ。お前の脚も俺のナニも、一緒に解決してやるぜ!」

 たたた、と少し走るとそこはホテル街。
 昼間のせいか、あまり人影も見えず。

「ほら、ご休憩時間の間に直るだろ? デイタイムサービスで料金もお得」

 にやにや笑いながら言うと、セリオは頬を赤く染めて。

「浩之さんの、えっち……♪」

「お前も大概だけどな」

 ははは、と笑っていたら。
 きゅ、とセリオの腕に少しだけ力が込められた気がした。






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