へなちょこ綾香ものがたり

その3「貴方に捧ぐ」








 風呂上りって、水分補給するのがお約束だよな。

 てなわけで、俺は水かジュースでも飲もうと思って。
 やっぱしカ○ピスにしようかな、とか考えながらキッチンへ行くと。

「お? 綾香ぁ、何作ってんだ?」

「あ……見つかっちゃったぁ」

 てへへ、と舌を出す綾香。

「マルチとセリオに、しばらくお風呂で引き止めてくれるように頼んだのに」

「ん……あいつらか? そういや、いつもより長く続いたな……」

 『ま、まだまだっ!』とか言って、いつもみたいに『求めている』って感じ
じゃなかったもんな。
 言うなれば、俺を倒す気で挑みかかって来ていた……そんな感じかな。

「な、何が続いたのっ?!」

「いや、今は2人して仲よく眠ってるぜ」

 2人が気を失ったのが風呂場だったからな。
 身体が冷えないように、水気を拭いて毛布かけて客間に放り込んでおいたぞ。

 ふ、まだまだ奴等も甘いぜ。

「これは想像以上に難敵ね……分量多くしちゃえ、えい」

「ん?」

 今何か、変な瓶を……。

「な、何でもないわ。コレ出来たら浩之にあげるから、もう少し待っててね」

「……ああ、楽しみにしてるぜ」

 何かを企んでるようだけど。
 多分実害はないだろうと、俺は素直に言葉に従うことにした。






 しばらくして。
 控えめなノック音と共に、綾香が俺の部屋に入ってきた。

「浩之ぃ、紅茶とホットケーキよぉ〜」

「おお、丁度小腹が空いていたところでござる」

「ふふふ、変な口調」

 それはそれとして。

「おっ、美味そうじゃないか……お前って料理出来たんだなぁ」

「しっ……失礼ね、これでも女の子なんだから。このくらい出来ますよーだ」

 いや、マルチはこのくらいも出来なかったが。
 ま、今ではかなりの腕前だし……あの頃のことは、からかう時にでも。

「そうか……じゃ、早速いただくぜ」

「どうぞ、召し上がれっ」

 紅茶のカップと、ホットケーキの皿を受け取り。
 綾香も自分の分を取って、俺と一緒に床の座布団に座り込む。

「えへへ……そういえば私の料理を食べてもらうのって、初めてね」

「そういえばそうだっけ……大丈夫かなぁ、コレ」

「あー、ひっどーい! そんなに言うなら食べなくて結構よ」

「嘘だって、美味そうだよぉ」

 危うく奪い取られそうになりながら。
 おれは、わくわくしながらホットケーキを口に運ぶ。

 ぱくっ。

「ど……どうっ?!」

「うっ……ううっ」

 苦しそうなフリをして、喉を押さえてたりして。

「浩之っ?! 大丈夫っ?!」

 ……お約束ではあるが。
 何となくやっておかないと落ち着かないんだよな、コレ。

「ねぇ、浩之っ? ……まさか多過ぎた?!」

 ……何が?

「う、美味い……けどさ……何が多かったんだ、おい?「……あ」

 『あ』じゃなくてさ、『あ』じゃ。

「……吐いてくるぞ?」

 折角の綾香の手料理。
 ……勿体ないから、吐きたくなんかないぞ。

「ううっ……わかったわよぉ……」

 うむ、言ってくれるならよし。

「で?」

「あ、その前に全部食べちゃってくれる? 紅茶も残さずね」

「……おい?」

「冷めたら美味しくなくなっちゃうもん」

 ……まぁ、いいか。
 先程の作りかけの段階で変な瓶を使ってたみたいだから、綾香の方にも同じ
モノが入っているんだろうし……。

 というわけで、とりあえず全部食った。






<……続くみたいね>
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