へなちょこ綾香ものがたり

その5「接待するのっ☆」








「浩之、夕方までその辺ぶらぶらして来て頂戴」

「……あぁ?」

 いきなり何を言い出すんだ、こいつは。

「夕方って、今さっき昼飯食ったばっかだぞ? 何して時間潰せばいいんだよ」

「いいから。その代わり、晩御飯は期待しててね♪」

 ちっ、しょうがねぇなぁ。
 何を企んでるかは知らないが、いっちょ乗ってやっか。

「わかったよ……マルチ、一緒に行くか?」

「はー……」

 嬉しそうにマルチが返事をしようとした時。

「駄目よ」

「……いっ?! そっ、そんなぁ……」

「おいおい……まさかセリオを連れて行くのも駄目なのか?」

「勿論よ」

 冷たく言い放たれたその言葉に。
 マルチが駄目なら自分が……と、いそいそと編み物道具を片付け始めていた
セリオだったが。

「……くすん」

 ……これで『私を連れて行くなら可』とか言うなら、問答無用で1人だけで
留守番させるところだが……さすがにそんな真似はしないらしい。

「ったく……仕方ねぇ、5時頃までぶらついてくっか……」

「はぁい、いってらっしゃ〜い♪」

 ぶらぶらどころか、らぶらぶしてこようと思ってたのに……甘かったか。
 ゲーセンでも行って来るか……。






「……っと、今日は大漁だったな……」

 今日は対戦格闘ゲームの修行をするつもりだったのだが……『予定は未定で
あって決定ではない』という言葉を、我が身をもって実証してしまった。

「へへへ、今日から俺もガンマンだぜ! ……なんちって」

 今日は、射的ゲームをやっていたのだ。

 夜店によくあるアレだと思ってくれても差し支えない。
 コルクの弾丸を銃口に詰め、自分でスプリングをコッキングして。
 観覧車のゴンドラのようなものに薄い紙で吊るされて回っているぬいぐるみ
などの景品を、根っこの薄い紙を射って切って落とすやつだ。

「マルチ、結構ぬいぐるみなんか好きそうだからな……喜ぶだろうなぁ」

 っていうか今日の俺、カッコよすぎだったぜ。
 百発百中、狙った獲物は逃がさない……おおう、カッコいいっ(爆)!
 全く、みんなにも見せてやりたかったなぁ……。

 ……みんな?

 そういえば、と俺は腕の時計を見て。

「そうだ! もう5時過ぎてんじゃねぇか!」

 しまった、あまりにも熱中しすぎて時間を忘れてたぜっ!
 これ以上遅れたら、一体ナニをされるか(爆)。

「やべぇ、走るか」

 だだだだだっ……。






 がちゃっ……。

「た……ただいま……」

 中の様子を窺いつつ、そろ〜っと玄関に入る俺。

 ずーん……。

 案の定、玄関先で待ち構えていた綾香。

「……今までどこをほっつき歩いてたのよっ?!」

「……お前がどっか行けって言ったんじゃないかよう」

「うっ……まぁいいわ。ささ、とりあえずいらっしゃい」

 ……いらっしゃい?

「おい、一体……」

「いいからいいからっ! さささ、こちらへどうぞっ!」

「あ、ああ……」

 何か妙なノリの綾香に促されるがまま、俺は居間へ向かった。






「おおっ、今日はしゃぶしゃぶかぁ」

 テーブルの上に、久方ぶりに見たしゃぶしゃぶ鍋。
 すでに湯はぐつぐつ煮立っている。っていうか俺が遅れている間に結構蒸発
しちゃったのか、湯量は少な目だ。

「……はい。お肉の厚みは、如何程にしましょうか?」

 セリオは、服の袖口からきらりと光る細い線を見せながら。
 傍にいるマルチが持った皿には、皿の模様が透ける程薄切りにされてる肉と、
これはステーキかいと思わせるような分厚い肉とが載せられていた。

「……ごく一般的な厚みで頼む」

「了解」

 ……ふぅ。
 アレにはあまりいい思い出はないから、今でも冷や汗が出るぜ。

「お湯を足すですぅ」

 やかんを持って、ぽてぽて走って来たマルチ。
 危ないなぁ。

「気を付けろよ」

「はいー」

 っていうか。
 テーブルの中央に置かれた鍋に、身を乗り出してお湯を注ぎ足すマルチ。

 …………。
 姿勢がバランス悪いなぁ……こりゃ、やるな。

 とぽぽぽぽぽ〜……っ。

 ぐらっ。

「はにゃっ?!」

「おっとぉ」

 予想通り、鍋に頭から突っ込みそうになったマルチを抱きとめる。

 ふにゅ。

「きゃん」

「……あ、悪ぃ」

「い、いえ……」

 マルチはスカートを押さえながら、そそくさとキッチンへ戻って行き。

 ……あれ?
 いつもなら、もう少し触らせてくれるのに(爆)。






「なぁ、しゃぶしゃぶの準備の為に俺を追い出したのか?」

 そんな必要はないと思うのだが。

「ふふふ……マルチとセリオを説得してたのよ」

 ……説得ぅ? 何の?

 不敵に微笑んでいる綾香。
 その様子に俺が首をひねっていると、肉の準備を終えたセリオ達が大きな皿
と小鉢を運んできた。

「浩之さん、お待たせしましたーっ☆」

「……こちら、胡麻ダレになってマス」

「おお、さんきゅ」

 俺はタレの入った小鉢を受け取り。
 テーブルにどんと置かれた皿から、薄切りの肉を箸でつまみ。

 しゃぶしゃぶしゃぶ……。

 胡麻ダレにちょちょんと浸けて、ぱくっとな。

「うむっ! 美味いっ!!」

「……ありがとうございマス」

 セリオは、ぺこりとおじぎをして。
 くるりと、スカートを翻して再びキッチンに戻ったが。

 ひらっ……。

 ぶぱ。

「せ、セリオっ?! お前っ……」

「なっ……何かっ?!」

 な……何って、お前……。
 どうして可愛いお尻が丸見えなんだよっ?!

 っていうか、気付いたらマルチもセリオも顔真っ赤やん。
 綾香の言った『説得』って、コレのことだったのか……。

「あら……床にゴミが……」

 セリオは俺に背を向けたままで、しゃがみ込むでもなく。
 床に手を伸ばしてゴミを拾っているセリオの後ろ姿を見て、俺は鼻息を荒く
していて。

 たり。

「み、見えた……」

「どう? 喜んでもらえたかしら?」

 お、おう……すこぶる嬉しいぜっ。
 チラリズム(?)万歳だぜ……。

「浩之さん、何かお飲み物はいかがですかー?」

 ま……まさか、マルチもっ?!

「おう……その前に」

 ぽいっ。

 俺は、わざとテーブルの下に箸を放り投げ。

「箸を落としちまった……拾ってくれ、ゆっくりとな」

「……は、はいっ(ぽっ)」

 で。
 じっくりと、いい角度で眺めさせてもらった(爆)。












 それから、しばらく後。
 胸も一杯、腹一杯。目の保養まで出来て言うコトなしだ(爆)。

 『もしや綾香も……』などと綾香にも拝ませてもらおうと思い、綾香が丁度
立ち上がったところで下から覗いてみたのだが。

「あ、白」

 綾香は履いてるのか……ちっ、残念(爆)。

「きゃぁぁぁぁっ!」

 ぽこ°っ。

 ……避けることすら出来ない程のローキックで、俺は沈められてしまった。

 でも……気を失う一瞬前。
 確かに、綾香の言葉を聞いた。

「そ、そんなに見たいのなら……明日は私がスキヤキ作ってあげる……」

 ……えへへへへ。

 ……がくっ。






<……続かないのよ>
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