へなちょこあかりものがたり

その4 「志保ちゃんニュースに要注意」








 朝。お日さまの光が目にまぶしいよ。

 おふとんの中で寝がえりをうって。それから、枕許においてあるくまさんの
目覚まし時計に手を伸ばした。
 目覚まし時計だけど、私は、その音をめったに聞かないの。
 だって、いつもそれより早く起きるから。

 今日も手を伸ばして……あれ? ないよ?



 ばっ、とおふとんをはねのけて。きょろきょろとあたりを見回すと。
 そう、ここは浩之ちゃんの家。

 昨日から、私は浩之ちゃんの家に住むことになったんだもの。
 時計を見ると、もうすぐ7時。まだ時間はおっけーだね。
 パジャマが乱れてないか簡単にチェックしてから、台所に向かう。
 浩之ちゃんやマルチちゃんを起こさないように、そっと注意して、ね。



 朝ご飯を作りおわって。浩之ちゃんを起こしに行こうかな、と思っていたら。

「おっす」
「あ、おはよう、浩之ちゃん」
「おう……お、今日はオムレツか」
「うん。あ、マルチちゃんは?」
「ん……まだ寝てんじゃねえか?」

 うふふ。マルチちゃんったら。
 ロボットなのに、浩之ちゃんよりもっと寝ぼすけなんておかしいね。

 ぺし。

「あう」
「考えてることが全部顔に出るんだよ、お前は」

 そうかなぁ……。
 でも、浩之ちゃん以外の人にはそんなこと言われたことないんだよ。

 やっぱり、浩之ちゃん。私のことよく見てくれてるんだね。

 うふふ。

「あう……おはようですー」

 あ。マルチちゃんも起きてきたよ。

「おはよう、マルチちゃん」
「あやや? 神岸さんですー。おはようですー」

 それから、三人で(マルチちゃんも食べられるのね)食事をして。浩之ちゃんと
私は学校へ行く準備、マルチちゃんは食事のお片付け。



「んじゃマルチ、いってくるわ」
「いってきます」
「はい、いってらっしゃいですー」



 マルチちゃんにいってきますのあいさつをして。浩之ちゃんと二人で玄関を出る。
 そしたら、そこには……志保がいた。

「あ、志保。おはよう」
「げ! 志保!」
「え!? あんたたち、そういう関係だったの!?」

 うふふ。志保もびっくりってやつだね。
 志保が私の手をひっぱって、私の耳のそばで囁くの。

「うん。昨日から、浩之ちゃんの家に……」

 ばっ!
 浩之ちゃんの大きな手が、私の口をふさいできた。

「ば、ばか! 余計なこと言うな!」

 あわててそれだけ言って、私を志保からかばうみたいに後ろに隠して。

「あ、あはは。何でもねえよ。何でも、な」

 そんなこと言いながら、じりじりっと後ずさって、志保から離れようとするけど。
ちょうどその下がった分だけ、志保が前に出てくる。
 何か面白い話を見つけたときの、あの独特の笑いを浮かべながらね。

「ふーん……そうなんだ。今日のトップニュースは決まりね」
「お、おい、志保!」

 うふふ。志保の噂話は情報の宝庫だもんね。
 マルチちゃんが初めて学校に来たときも、志保が最初に教えてくれたじゃない。
たしかに間違ってることも多いけど、けっこうみんな楽しみにしてるんだよ?

「あによぉ。こんないいネタ、流さないわけないでしょ」
「先生とかが知ったらどうすんだよ。そうでなくても」

 その志保ちゃんニュースで私たちのことが伝えられたら、これから浩之ちゃんに
言い寄ろうって娘はいなくなるよね。
 私だけの浩之ちゃんになってくれるんだよね。

「そうでなくても? 来栖川先輩とか、松原さんとかが近寄らなくなるってーの?」
「う゛……ど、どこでその情報を……」

 うふふ。
 ちょっとさびしいけど、でも、それはそれでいいかも。

「へっへーん、この志保ちゃんの情報網を舐めるんじゃないわよ」
「情報網、ねぇ……」
「これであんたに誰も寄りつかなくなったら、あんたに人望がなかったってことよ」

 でもね、浩之ちゃん。
 浩之ちゃんのことを、みんなが信じてくれなくても。私だけは信じてあげるよ。
いつでも、どんなときでも、ね。
 だって、私。絶対に、何があっても……浩之ちゃんのお嫁さんになるんだから。
小さいときからの夢なんだからね。

「わ、わかった、何が望みだ!」
「ほう、じゃーなりすとを買収するとおっしゃる」
「買収ってわけじゃないが……まあ、口止めだな」

 みんなには内緒にするの? ああっ、私って認められぬ立場の女性なのね……。
でも、平気だよ。浩之ちゃんが私のことを愛してくれるなら、もう、それだけで。
それだけで、私は幸せだから。

「あかりはどうなの?」

 ぼぉっと、自分の考えにひたっていた私を呼び戻したのは、志保の呼びかけ。

「え?」
「え? じゃないわよ。あかりはヒロの悪行を報道してもらいたいの?」
「……悪行、って……」

 あーあ、また志保が早合点してるよ。

「だってそうでしょ? 嫁入り前の娘を家に連れこんで、酒池肉林やりたい放題。
 それだけにとどまらず、いたいけなロボットにまで手を出したという極秘情報も
 あるぐらいだもん」

 ううん……。でも……やっぱり、私のはじめては浩之ちゃんにあげたいし……。
そういう意味では、そう間違ってないのかもしれないけど……。
 でも、浩之ちゃん、マルチちゃんに手を出してるの? ……そんなの、やだよ。
私が全部浩之ちゃんのものなのと同じように、浩之ちゃんも全部私のものでいてよ。
ううん、全部じゃなくてもいい。だけど、私のものでいてほしい。

「お、俺はそんなことしてないぞ」
「本当かしら? どうなの、あかり?」
「え……ん、うん、そんなことまだしてないよー」
「まだ? ……今、まだ、って言ったわね?」
「お、おい、あかり!」
「あ……えへへ」



 と、いうわけで。今日の志保ちゃんニュースの一面トップは、

 『熱愛発覚! 藤田あかり誕生まであとX日!?』

 と、相成ったのでした。






<つづく>
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