へなちょこあかりものがたり

その10 「うし」








 ぴぃん・ぽぉん

「はーい」

 インターホンがなって、私は玄関へ駆けていく。
 玄関には、紅い髪の少女……あ、私じゃないよ。セリオちゃん。

「−お届け物デス」

 白と黒が混じった布、きちんと折り畳まれている、服かな?

「マルチちゃんに?」
「−いえ、マルチさんとあかりさんと、お二方に」
「え? 私にも?」
「−ハイ」

 セリオちゃんはこくんと頷いた。
 やっぱり、心がない、って言われても、信じられないよね。
 マルチちゃんといっしょで、セリオちゃんが機械だなんて信じられないもの。

「うん、ありがとう」

 私がお礼を言うと、金属製のお椀のようなものをその上にポンと乗せた。

「−もう一つ、こちらは浩之さんからの頼まれ物デス」
「浩之ちゃんから?」
「−ハイ」

 手に取ってみる。
 牛の首についてる、アレだよね。

「……カウベル?」
「−用途は存じあげませんが……お渡ししマス」
「あ、う、うん」
「−それでは、私はこれで」

 ペコリと頭を下げ、スタスタと歩き去っていく。
 後に残された布を広げてみると、……白黒まだらのつなぎが二着。
 牛? ……だよね?


 私とマルチちゃんの両方に、って……浩之ちゃん、こんなのが趣味なのかな?
 カウベルまで……こだわってる、っていうか……。


 やっぱり、私とマルチちゃんに着せるんだよね……これ。
 カウベルもつけて……
 並べて、四つんばいにさせるつもりなんだ、きっと……。

「何だ、ここの牛は胸がないのか」

 そんなの……ひどいよ、浩之ちゃん……。
 可愛いって言ってくれたから、私、自分のことが好きになれたのに……。

 涙がこぼれそうになっている私のそばに近づいてきて、しゃがみこんで。

 ぎゅっ、って、強く強くオッパイを掴んできて。

「ひあああっ!」

 痛い、ちぎれそうに痛い。

「牛が悲鳴を上げるなよ……牛はモーだろう?」
「モーなのですぅ」

 おんなじ格好してるのに、マルチちゃんまでそんなことを言ってきて。
 ぽろぽろと涙が頬を濡らして滑り落ちてく。

「仕方ないな……少しでも大きくなるように手伝ってやるか」

 きゅっ、ぎゅっ、きゅっ、って強弱をつけながら揉んでくる。浩之ちゃんの
大きな手が、私の小さなオッパイを隠すみたいに包み込んで。

「ひあっ……ぅああっ……っぅん……」

 私の口から漏れる声に少しずついやらしい艶がまじりはじめて。

「ああっ、ずるいのですー。私も神岸さんを気持ちよくしてあげたいのですぅ」
「じゃ、マルチも手伝ってくれよ」
「はいぃ、わっかりましたのですぅ」

 そういうと、マルチちゃんは四つんばいのまま私の横まで来て。

「んふふー。神岸さん、キスするのですぅ」

 えっ、と驚くひまもなく、マルチちゃんの柔らかい唇が私の唇に触れる。

「……んっ……ちゅくっ……んぱぁっ」

 マルチちゃんの柔らかい舌が私の口の中を自在に這い回ってくる。
 脅えてちぢこまっている私の舌を掘り出すように口の中を動き回り、そして
私の舌を搦め取って、熱い唾液をかき混ぜてくる。

「ふああっ……ひぁん……もうっ……」

 自然と、私の腰がいやらしく動きはじめるけれど。
 でも、肝心なところ……いやらしいところはつなぎの中で。
 外から手を触れても、もどかしい刺激だけが伝わるだけで。

「……ああっ……浩之ちゃん……お願い……お願いぃ……」
「何がお願いなんだ? 言ってみろ、あかり牛」
「……お願い……お願いだから、このつなぎを脱がせて……お願い……」

 ぽろぽろと涙がこぼれ、足の間からのいやらしい涙も滾々とわき出してくる。
私は恥も外聞もなく腰を振りながら、そうおねだりをする。

「……自分で脱げばいいだろう?」

 意地悪くそう言ってくる浩之ちゃん。でも、ダメ……私が脱いだら、もう、
それで二度と浩之ちゃんのものにはなれないから……。
 だから……私は……ただ、涙をこぼして。

「そんな……できないよ……」
「なら、そのままだ」

 ぎゅっ。
 今までで一番力をこめてオッパイを掴まれたのに。
 今度は、すごく気持ちよくて。

「ひあああっ、あああーっ」

 私の、甲高い声。いやらしい声。
 それを遠くで聞きながら、私の意識は遠くなっていく。


 ……ふらっ、バタン。

 手で体重を支えるのも限界になって、私はその場にへたり込む。

「どうした、あかり!」

 浩之ちゃんは、だだだだっ、と足音を響かせて玄関へと駆け出てくる。

 ……玄関へ?

 あ……私、また……。

「う、ううん、何でもない……何でもないよ」
「……そうか? 病院行かなくていいのか?」
「うん、ちょっとぼおっとしてただけだから」

 ぺしっ。

「あっ」
「俺に心配かけた罰だ」
「うん。……えへへ」

 浩之ちゃんはさっさとリビングに戻っていったけど。
 すぐに駆け出てきてくれて、すごく嬉しかったんだからね。

 ちょっと……ほんのちょっとだけぼーっとしてから、リビングに戻った時。
ソファーでごろごろしてる浩之ちゃんとマルチちゃんに、その品物を見せて。

「これ、セリオちゃんから」
「ほえ? あーっ、牛さんなお洋服ですう」

 マルチちゃんはそれを両手でピンと広げて、すごく嬉しそうに眺めながら。

「神岸さんー、これ、お揃いなんですよぅ。いっしょに着るですー」
「あ、うん」
「お、セリオの奴、一緒にカウベルも持ってきてくれたのか。これ、ちょっと
 玄関に付けてくるから、その間に着替えておけよ」
「……あ、うん」

 ……そうだよね。
 浩之ちゃんが、そんなことするはずないよね。
 ……やっぱり、私、どうかしてるね。

 疑うようなことして……ごめんね、浩之ちゃん。





<つづく>
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