へなちょこあかりものがたり

その14 「お買い物(前編)」








「おーい、買い物に行くぞぉ」

 浩之ちゃんの声。
 いつも通りの、ぶっきらぼうな声。

「うっ、うんっ!」

 慌ててお着替え。
 浩之ちゃんとお出かけだもの、きちんとした格好をしたいよね。

 お気に入りのブラウスにスカートに着替えてリビングに行くと、そこでは、
マルチちゃんが半べそをかきながら部屋中をひっくり返していた。

「……なにしてるの、マルチちゃん……?」
「あ……神岸さんー。小まるちがどこかに行っちゃったのですぅ」
「こんなところにあるかよ……倉庫にでも片付けたんじゃないのか?」
「そんなことできませんー! 小まるちは、私の大事な宝物なのですぅ!」

 マルチちゃんの声に涙が混じっている。
 本当に大切なものなんだろうな……。

「お、あかり。まだゆっくりしてればよかったのに」
「え……?」
「マルチの準備体操が済んでから、買い物に行こうかと思ったんだけどな」

 準備体操……?
 小まるち……?

「つやつや光る緑色のかわゆい奴なのですぅ」
「だから、こんなところにしまったのかって!」
「あうー、覚えてないのですぅ」
「……久しぶりだからなぁ……準備するときも手伝ってやろうか?」
「はうぅー……だめなのですぅ、小まるちはきっと私に見つけてもらえるのを
 待っているのですぅ……。」

 「こんなところ」に片付けたりしない、緑につやつや光るかわゆい奴?
 ……それって、その……もしかして……。

「あううー、しかたないですぅ、浩之さんにお願いするのですぅ」
「あ? おいおい……結構距離があるからなぁ……そんなに体力ないぜ」
「大丈夫ですからぁ……連れていってくださいー、ぐじゅ」
「……ああ、もう……しかたねぇなぁ……見つからなかったら、な」

 ……えーっと……その……。
 それって、やっぱり……その、いわゆる、大人のオモチャ、なの……?
 ついに、浩之ちゃん、行き着くところまで行っちゃったの……?


 マルチちゃんを、よりによってマルチちゃんを、そんな、あの、えっと……
いわゆる、バイブ……で、その……。

「あ……ありましたですー!」
「お? ちゃんと寝室に片付けておけって言っておいただろう」
「はいぃ、でも……大事なお友達ですからぁ……」
「……しかたねぇなぁ」

 そういうと、浩之ちゃんはマルチちゃんの手で鈍く光るバイブを奪い取って。
そして、マルチちゃんをその場に押し倒して。
 ああっ、ここ、リビングだよ? いつ、誰が来るかも判らないのに……。

「ほら、マルチ……自分で準備してみな?」
「はいぃ……ああっ、恥ずかしいですぅ……」

 くちゅっ。
 バイブを探している間から、もう興奮してたのかな、マルチちゃん……。
 ショーツをずらしただけで、もう、ここから見ても判るぐらいに濡れて……。

「もうこんなに濡らして……マルチ、スケベだなぁ……」
「あう……はいぃ……マルチは、スケベなメイドロボですぅ……」
「メイドロボ、じゃねぇだろ? ほら、ちゃんと言ってみな?」
「はいぃ……マルチは、マルチは……スケベな、御主人様の奴隷ですぅ……」
「よし……きちんと言ったマルチに御褒美をやろう」

 じゅぷっ。
 こんなに離れているのに。
 聞こえるはずのない音が私の耳に届いたような気がした。

「はぅんっ! ああっ、き、気持ちいいですぅ!」
「ほら、マルチ……身体中、もう真っ赤だぜ? ここも……」

 かわいらしいブラウスの下で、いやらしくうごめく浩之ちゃんの指。
 マルチちゃんの、私よりもっと小さなおっぱいを、そっと刺激している。

「ああっ……あああっ、も、はぁっ……」
「ほら、どうした? もう気持ちよくなってるのか?」
「はっ、はいっ……ぅんっ、ああっ」

 浩之ちゃんの右手が、少しも休むことなくマルチちゃんの足の間を前後して。
 手に持ったままのバイブ……小まるち、が、激しく前後して。

「あああっ、もっ、もうっ、いっ、いっちゃいますぅっ!!」

 びくんびくん。
 最後に大きく二度揺れて、そして、マルチちゃんの足の間で、透明の液体が
しぶきを上げた。
 浩之ちゃんは、それをよけることもなく顔で受けて。

「……さ、マルチのほうはもう準備できたな。おい、あかり」
「……あ……」

 にやり、と笑みを浮かべ、浩之ちゃんは私に近づいてくる。
 私は、浩之ちゃんと、気を失ったマルチちゃんを交互に見ながら。
 何かを期待しているかのように、その場から動きもしないで……。

「どうも、元気になっちまった。後始末してくれないか」
「あ……うん、いいよ。えへへ」

 私は、浩之ちゃんの前にひざまづいて。
 ズボンの前を突き上げている、浩之ちゃん自身を取り出して……。



「おい、あかり」
「え……あ、はい……」
「おいおい、どうしたんだよ。小まるちが裏の倉庫で見つかったから、行くぞ」
「え?」

 きょろっとまわりを見回すと、淫靡さの香りもなく。
 浩之ちゃんは玄関から声をかけてきていて。
 その向こうに、緑色の自転車に跨がって嬉しそうなマルチちゃん。

 ……小まるちって、自転車のことだったのね。

「あ、うん。ちょ、ちょっとだけ待って」
「なんだよ、今までぼーっとしててくせに」
「……う、うん、だけど……3分だけ……」

 足の間、敏感なところが、とっても冷たくて。
 ショーツだけ、交換してこないと……。
 私は、浩之ちゃんの答えも待たずに、洗面所に駆け込んだ。

「……はぁ……」

 ショーツの下半分、大事なところを支えている二重の布の部分がじっとりと
重くなっていて。
 慌ててそれを脱ごうとして、足元がもつれて。

「きゃっ」

 小さな声をあげて、私は壁に手をついて、お尻をつきだす格好になった。

 ……あ……えっちな格好、してるかも……。
 ショーツだけ下ろして、イヌみたいにお尻を突き出して……。

 ……ダメダメ、こんなこと考えたら……。
 私は、ため息とともに、そのショーツを洗濯機に放りこんだ。


「おい、あかり! 早くしろよ!」
「あ、うん、今行く!」

 玄関に出ると、外の青空が目にまぶしくて。
 私は思いっきり背伸びをして。

 うん、今日は最高のお買い物日和、だねっ☆




<つづく>
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