へなちょこセリオものがたり
その103「何を願うの」
「しり取りをしましょう」
「あ? 何だ、いきなり」
「わぁい、やるやるやりますぅ〜♪」
……何に付けても子供っぽいのが好きだもんな、マルチは……。
「では……負けた人には、勝った方のどちらかがお仕置きをするということで」
俺の参加意思は聞かんのかい。
「おう、罰ゲームは何でもアリな」
「ふっふっふー……こう見えても私、しり取りには自信がありま」
「それでは私から始めますネ」
……マルチが何か言いかけてたってのに……。
たまには聞いてやれよ、可哀相に。
「……ぐっすん、ですぅ」
よしよし、泣くんじゃないぞ。
なでなで。
「サイコ」
「こ……コーヒー」
「ひ……ひ、ひ、浩之さんっ」
……をひ。
「はいマルチさん、お仕置きデス」
早っ。
何て早い決着だ。
「ああっ、あうあう……」
何故か嬉しそうなマルチ。
俺の方をぽーっと見つめて、もじもじして……。
へへへ、俺の『お仕置き』を期待してるんだなっ!?
よっしゃ、ならばその期待に……。
「マルチさん」
「ほえ?」
不意にマルチを呼んだセリオ。
マルチは無防備に振り返り、そして。
ちゅぅ。
「もがぐもももっ!?」
ちゅぅ〜……。
「もももっ……ふもぉ〜……」
ちゅぅ〜……。
……長いな、おい。
しかも深い方のだし。
「……ぷはぁ、はぁ……お仕置き終わりデス」
「もっ……もう終わりなんですねっ……」
ああっ、マルチっ!?
何でそんなに残念そうなんだっ!?
「じゃ、じゃあ俺も……」
「駄目デス。『勝った方のどちらかが』と先程取り決めをしたハズですが」
むぅ。
「でっ、では早く次に進むのですぅ」
早く? 次?
マルチ……お前、ナニを期待してるんだよ?
「それでは、マルチさんから」
「え、えっと……ひ、ひざっ」
「……ザイル」
「えーと、ルーペ」
これでマルチが『ペンギン』とか言ったら面白いのだが(笑)。
「ぺんたごん」
べこ°し。
「おりょ、浩之さん……」
「お、お前なぁ……」
言うにコト欠いてそれかい。
「ではマルチさん、お仕置きですネ」
「はっ、はぁい♪」
ちゅぅ〜……。
「……あのー?」
「んぅっ、んむっっ……」
「ぁんっ……ふぅっ……」
何か2人とも一生懸命だし。
「はぁ、はぁ……さて、ではまたマルチさんから」
「は、はぁい……♪」
……寒い。
俺、今ものすごく寒い。
「ぺ、ぺ、ぺなるてい」
「イール……鰻のことデス」
「る……」
ま、また『る』かよ。
「ルーラー、定規だ」
「ら、ら、ららみ〜ですぅ」
「ソレ駄目」
一瞬、『なるほどっ!』とか叫びたくなったが。
「あうう……らんどせる」
おっ。
セリオめ、俺にわざと『る』を回してたけど……今度は自分に回って来たぜ。
「……ルール」
べき°ん。
「あら……床に頭から突っ込むのがお好きなので?」
「お前、わざとやってるだろ?」
「はい? 何がでしょうか?」
つーん。
そ、そっぽを向くなぁ!
「……ルビー」
くそう。
お前がその気なら、俺もとことん付き合ってやるぜっ!
「えっとぉ、びり」
「……リール」
「ルート」
心なしか……マルチが間違わなくなったぞ?
「とんび、ですぅ」
「ビール」
「うっ……ルアー」
「足、ですぅ」
「シール」
「…………」
くぅ……いくら何でも『る』の付いた言葉なんて、そうそう数もないし。
「る……ルタ・ジェンマ」
「人名は不可デス」
くそう、対成す女神の神官の子孫様の名前なんだぞう。
っていうかセリオ、あのゲームを知ってたのか。
「ええと……流浪」
「歌、ですぅ」
「樽」
あああっ、わかったっ!
こいつら、2人してグルになりやがったなっ!?
イケナイ電波でやり取りして、セリオがマルチに指示出してるに違いないっ!
「ルピー……通貨単位だ」
「ぴんく」
「クール」
まだ続くのかい。
「……ルー……っと、ルーン文字」
「ちっ」
だからセリオ、可愛い女の子が舌打ちなんかするもんじゃないと何度言えば
わかるんだっての。
「じ、じ、軸足」
「ショール」
「……だぁぁぁぁっ! もう出て来んわぁぁぁぁ!!」
ったく……前準備もなしで、こんな勝負でお前に敵うかっつーの。
「では、早速罰ゲームですネ」
「はぁい♪」
あ。
何かすっげぇ悔しい気分だったけど、そんなのどっかに飛んで行っちゃった
気がするぜ。
「たっ、頼むぜっ!」
「ええ……今度は、私のバッテリーが切れるまで続けさせていただきますネ」
お、おおっ!
嬉しいコト言ってくれるじゃん!
俺……身体が持つかなぁ?
「では……」
……と。
俺がセリオを抱きしめようと腕を伸ばした時。
「わぁ〜い♪」
「……はい?」
とててて……。
俺の脇をすり抜けて行ったマルチ。
それを、ぽふっと受け止めたセリオ。
「うふふ……浩之さんには、何よりの『お仕置き』ですよネ」
「セリオさん、早く早くですぅ〜☆」
「はいはい」
ちゅぅ〜……。
…………。
もしかして……最初から全て、俺を排除する為に仕組まれたことっ!?
うっ……うわぁぁぁぁぁぁん!
「お前達なんか、お前達なんかぁぁぁぁぁ!」
だっ!
……俺が泣きながらその場を走り去っても、2人は気にした風もなく。
夕方頃、腹が減ったので様子を見に行ったら……まだ、熱い抱擁の真っ最中
だったりして。
俺は泣く泣く、財布を握って家を出たのだった。
<……続きます>
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