へなちょこセリオものがたり

その38「別離の日」








「そんじゃ、おやすみぃ」

「「……おやすみなさぁい……」」

 ん?
 2人の元気がないじゃないかって?

 そりゃそうさ、こないだの件からこっち、夜はすぐに就寝しちゃってるから
なぁ……なでなで・だきだきは以前の通りだが、キスやそれ以上のコトは一切
していない。

 ……本当だってば。

「「……あの、浩之さぁん……」」

「……ん? もう寝るんだぞ、おやすみ言ったろ?」

「「で、ですけど……」」

 むぅ、ステレオで同じこと言うな。
 寝るったら寝るんだよ。

 どうせ俺はゴミ人間なんだ、いらない子なんだよ。

「ふぁぁ……そんじゃ、今度こそおやすみ」

「……はい」

「はぁい……」






「セリオさん、これは由々しき事態ですぅ」

「……まさかここまでへそを曲げられるとは」

「セリオさんがやったことじゃないですかぁ……私、ずぅっと……その、して
いただいてないから……ううっ、ぐすっ」

「マルチさんはまだいいです……私なんか、なでなでの回数も減らされている
のですよ」

「私達……き、嫌われちゃったんでしょうか?」

「……かもしれませんね」

「……そんな、浩之さん……ずっと一緒だって言ったのにぃ……」

「『一緒にいる』ことは守られています……が、それ以上のコトは……」

「ううっ、ぐすぐすっ……えぐっ」

「……私のせい、ですよね……やはり」

「うぇ〜ん、浩之さ〜ん……えぐえぐっ」

「…………」






 ……がちゃっ。

「ただいまぁ」

 ぱたぱたぱた……。

「お帰りなさいですぅ」

「おう」

 たたた……ぽふっ!

「ん……セリオはどうした?」

「あれ? さっきまで一緒に居間にいたんですけどぉ……」

 ま、すぐに来るだろ。
 とりあえずマルチをなでなでしとくか。

 なでなでなで……。

「……ううっ」

 いつものように嬉しそうにしてくれるかと思っていたが。
 表情が曇ったかと思うと、目に涙を溜め始めて。

「ん? どうした、マルチ?」

「……最近一緒にお風呂に入ってくれないですぅ」

 そ……そのくらいのことで泣くなよ。

「そ、それはなぁ……」

「……私達のこと、嫌いになっちゃったんですか……?」






 その問いに答えようとしたら。
 ふと気が付くと、セリオがそこに立っていた。

「――――浩之さん」

 おう、来たな。
 って……あれ?

「ただいま、セリオ」

「お帰りなさいませ」

 ぺこり。

 ……それは、久方ぶりに見た動作。
 ……それは、機械的な儀礼。

「せ、セリオ……?」

「突然ですが、私は綾香様の元に戻ることにいたしました」

 な、何だって!?

「ちょっと待てよ、おい……何でいきなり!?」

「――――日常生活での運用上、重大な問題が発見されましたので」

 問題って……何だよ、帰らなきゃならない程のことなのか?

「どんな問題なんだ?」

「――――それは、浩之さんには無関係なことです」

 …………。

 おい?
 何だってそんな寂しいこと言うんだよ?

 ふと俺が腕の中のマルチを見ると。
 マルチは目を伏せ、静かにすすり泣いていた。

「……お前達、何かあったのか?」

「……うーっ! 何かって、浩之さんが……」

「……マルチさん。浩之さんには責任はありませんよ」

「セリオさん……」

 ……気に入らねぇ。
 どっかで話付けて、勝手に進めることが気に入らねぇ。
 俺に関係のないことなら、それは当然のことだけど。
 だが、この件に関しては……。

「――――それでは、長らく大変お世話になりました。後日改めてお礼に伺い
ます」






<……続きます>
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