へなちょこセリオものがたり

その79「いつも傍にいて 2」








「ふあぁ……」

 朝目が覚めると、何だか肌寒いような気がして。
 周りを見回すと……2人とも、いなかった。

「……あれ?」






 俺が眠い目をこすりながら階段を駆け降りて行くと。
 居間の入口のとこに、マルチとセリオが立っていた。

「おはようございますー」

「おはようございます」

 2人してエプロンかけて、手は後ろに回していた。

「ん……おはよ」

 ふぅ、一緒に朝飯の仕度でもしてたんだろうか……。
 
「「それと」」

「ん?」

「「お誕生日、おめでとうございますっ!」」

 ぱぱん、ぱんぱんっ☆

「わっ!」

 いきなりのクラッカーの洗礼。
 紙屑まみれになって困っている俺に、マルチとセリオがぴとっと抱きつく。

「今日は『浩之さんの日』なんですぅ♪」

「今日は、皆さんもお呼びしていますからね」

「って……誕生日ぃ?」

 しまった、そういえば忘れてたぜ。
 っていうか……こいつらに教えたことってあったっけ?

「お前達、よく知ってたな」

「うふふ……私の情報網を使えば、浩之さんの好きなものから今日のパンツ
の色まで……」

 怪しい、それって怪しい。

「んじゃ、俺の好きなものを言ってみろ」

「……私と、マルチさんデス(ぽっ)」

 ……た、確かに間違ってはいない。
 でもこういう時ってさぁ、普通は好きな食べ物とかのことじゃないのか?

「…………」

「あ、合ってますよね?」

 あせあせっ。

 俺が何も言わないもので、何か慌ててるセリオ。
 自分で言っておいて不安になるなよなぁ。

「……ああ、その通りだっ」

 だきだきっ! 

「はう〜、ちょっと苦しいですよぅ」

「……私は、もう少しこのままでいたいですけど」

 俺を驚かそうと、こいつら……。
 ちょ、ちょっとぐっと来ちまったぜ……へへへっ。






「今日の朝ご飯は、私達2人で一緒に作ったんですぅ」

「ほほう」

 1人で作っても美味いものが出来るんだから、2人なら2倍!
 友情パワーで倍率ドン! 愛情トッピングで更に倍っ!

「って……お茶漬け?」

 きっ、期待したのにっ……。

「うふふ、ただのお茶漬けではありません……米研ぎの段階から我々の総力
をもってプロデュースしました」

 ……いや、そんなんプロデュースされても。

「大きさの同じ米粒を選出することから始め、水も厳選したものを使い……」

「わかった、わかったから。とりあえずいただくぜ」

 確かに、お前らが本気で作ったのなら不味いわけがない。

「それでは浩之さん、あーんしてくださいっ♪」

「……あーん」

 ぱくっ。

 ……美味い。
 永○園のお茶漬けなんかとは比べ物にならない程にっ!
 つーか……それと比べる自分が情けないぜ。

 素材や調理法も去ることながら、何たって……があるしな。
 へへっ……ちょっとクサかったかな、今の俺(てれっ)。

「いかがですか、浩之さん?」

 あ〜ん……ぱくっ!

「美味い、いやマジでっ! こんな美味いお茶漬けは初めてだぜっ!」

「よかったですぅ。実は私達、寝坊しちゃって……本当なら別のお料理を」

「……しっ! ソレは秘密だって言ったじゃないですかっ!」

「あ、しまったですー」

「…………」

 いや、美味いからいいんだけどさ。
 寝坊してもしなくても、きっと愛だけは同じだけ入ってるだろうから……
きっと、な。






 2人に朝飯を食べさせてもらって(爆)、3人でソファーに寝そべって。
 ほわほわ〜とした空気を堪能していると、いつの間にか時間も過ぎていて。

 ぴんぽ〜ん。

「浩之ちゃん、来たよ〜」

「おう、上がれや」

「狭いトコだけど遠慮しないでね」

「誰だ、志保なんか呼んだ奴は」

「何よーぅ」

 あかりに雅史、志保が連れ立ってやって来て。
 靴を脱いで居間に移動すると、それぞれが小さな包みを差し出してきた。

「おめでとう、浩之ちゃん。はい、プレゼントだよ」

「さんきゅ」

 ……と、目の前で開けるのは悪いかな。

「おめでとう、浩之。これは僕から」

「悪いな、雅史」

 みんなが帰ってから、後で開けさせてもらおうっと。
 何だか……マジで悪いなぁ、2人とも……。

「ヒロ、本当はイヤなんだけど……どーしてもって言」

「いらん」

 きっぱり。

「なっ、何よぉ! まだ人が語ってる最中でしょぉ!」

「イヤだって言うのに、もらう必要があるとは思えん」

「きーっ! 素直に『ありがたき幸せにございます、志保様』って答えりゃ
いいのよっ!」

 っていうか、お前がいらんこと言うからだと思うが。
 大体『志保様』なんて、お前の言う『素直』ってのは一体どんなんだ?

「否! 断じて否っ!」

「まぁまぁ……浩之ちゃん、志保には冷たいんだから……志保も、ちょっと
言いすぎだよ」

 ぬぅ……冷たいかどうかは置いといて、志保が言いすぎっつーのには賛成
だな。

「……はい、ヒロ」

 ぺしっ。

「……どうも」






「皆さん、いらっしゃいませ〜」

「……ちょっと手狭ですが、少しの間ご辛抱を」

 まぁ手狭なのはわかるが……少しの間?

「なぁ、セリオ……」

 ぴんぽ〜んっ。

「あ、いらっしゃったようです」

 むぅ……一体何人呼んだんだろう。

 とたたたた……。






 第2陣には、結構意外な人物がいた。

「……藤田君、おめでと」

 い、いいんちょ?
 ううむ、今日もメガネが光ってるぜ(笑)。

「…………」

「姉さん、もっと大きな声で言わないと……え? 保科さんには聞こえない
方がいいって?」

 おお、先輩達も来てくれたのか。
 嬉しいねぇ、こんな美少女達に祝ってもらえるなんて……。

 毎日が誕生日でもいいくらいだぜ、全く(爆)。

「なぁ綾香、その後ろに隠れてる子……もしかして、葵ちゃん?」

「ほらほら葵、出て来なさいよ」

「は、はいっ」

 おおっ、葵ちゃん。
 ボーイッシュな格好がよく似合うぜっ!

「あのっ、男の人の家にお邪魔するのって初めてで……ちょっと緊張してる
んです」

「大丈夫だって、取って食いやしないからさ」

 ははは、と笑いながら俺が言うと。

「「…………」」

 じとーっ。

 なっ……何だよ、マルチにセリオっ!

「ケダモノさんが、あんなこと言ってるですぅ」

「ああやってエモノを油断させるのですネ」

 くそう、こいつらめ……覚えてやがれ。

「それはそうとセリオ……一体これだけの人数、どうするつもりなんだ?」

 すでに居間は満員状態、足の踏み場がなくなっている。
 庭を使うという手もあるけど、それでも少し足りないような気が。

「……芹香さん、お願いしマス」

「…………」

 こく。

 もしかして……先輩の魔法で?

「…………」

 先輩はどこからか、先っぽに星飾りの付いたステッキを取り出した。
 そして、それを居間の壁に向かってふりふりふり……。

「…………」

 ぎゅん、と音がして。
 気のせいか、壁が少し揺れたように見えた。

「お?」

 すーっと、壁の真ん中にドアが浮かび上がった。
 何の変哲もない、木製のドア。

 変わってることと言えば、壁の向こう側は廊下のはずだってことだ。

「……先輩?」

「…………」

 来栖川の家を使いましょう、って……先輩?

「…………」

「ふむふむ、なるほど」

 先輩が何事か囁き、俺はそれに頷く。

「何やて? 藤田君」

「わからん」

 べしっ!

「自分っ! 今、思いきり頷いとったやんかっ!」

 い、いいツッコミだぜ。
 さすがは(元)関西人。学校の授業に『漫才』があるだけのことはあるぜ
……。

「何かさ、空間をねじ曲げてうーたらこーたら」

「ふむふむ、離れた空間同士をワームホールでコネクトしたんやな」

 おおっ、何か横文字っ!
 ソレっぽく聞こえるぞ、いいんちょ!

「わ、わかるのかっ?」

「わからーん。適当に言ってみただけやもん」

 ……べしっ!

「いったぁ……藤田君、才能あるで」

 何のだ、何の。

「自分だって同じコトしてんじゃねぇ!」

「まぁまぁ……うちの方にも何人か連れて来てるからさ、あまり待たせない
うちに移動しましょうよ」

 あ……綾香、女の子って?
 これ以上人が増えるのか?

 ……まぁ、来栖川家なら平気かぁ。






「……ここは?」

 ドアを抜けると、妙にだだっ広い部屋……というか、広間があった。

「…………」

 へっ? 第12宴会場? 第1から第11宴会場は、今日は使用中?
 ……12番目でコレかよ……。

 第1大宴会場なら、一体どれだけのものなのだろうか。

「…………」

「狭くてすみません? だって先輩、ここ体育館並みの広さだぜ?」

 バスケのコートが2面は取れそうなくらいだぜ。
 ……と、広間の真ん中に大きなテーブルがいくつか並べられており、その
周りに何人かの人影が見えた。

「レミィに琴音ちゃんに、理緒ちゃんまで……よくこんだけ集まったなぁ」

 そんな独り言を漏らすと、いきなり背後から声が聞こえて。

「ふふふ、ご満足いただけましたか?」

 のわっ、セリオ!

「おっ、脅かすなよ」

「言ったはずですよ? 私の情報網を使えば、わからないことはないと」

 ……それで、どうしてこれだけ人が集まるってんだ?

「ここにいる方々は全員、多かれ少なかれ浩之さんに甘え……」

 ざわざわっ……。

「レミィ! そいつを黙らせるのよっ!」

「ぅヲッケイ!」

 レミィは、背中から長弓を引っ張り出した。
 勘弁してくれ、レミィの背丈より長さがあるじゃねぇか……。

「必殺必中ネっ! ライジング・アローッ!」

 ぎりぎりぎりっ……。

「……たがっている方々でして、つまるところそれは」

 ばひゅん! ……とっすん。

 ……ぱたふ。

「ああっ、セリオっ!」

 額のど真ん中に、見事に命中したレミィの矢。
 首ごと一瞬後ろに持って行かれたかと思うと、セリオはそのまま床に倒れ
込んで。

「フフフ、ミネウチだからダイジョブだヨ」

 矢で峰撃ちも何もないと思うが……。
 っていうかマジでぴくりとも動かないんすけど、セリオ。

「おーい、セリオ?」

 ……むくり。

「ふぅ、死ぬかと思いました」

 何事もなかったかのように起き上がったセリオ。
 つーか矢が頭に刺さっても平気なのかよ、お前は。

「…………」

 彼女は無表情のまま、額の矢を握り締めて。

 ……きゅぽんっ!

「あ……吸盤だったのか」

「言ったデショ? ミネウチって」

 得意気に言うなっ!
 どっちにしろ、そんな危険なモノは没収だっ!






 ……待てよ?
 今セリオは『ここにいる方々は全員、多かれ少なかれ浩之さんに甘え……
たがっている方々』って言ってたよな。

 ……全員が、俺に甘えたがっている? そいつぁ豪気な話だ。
 いや、セリオの言葉だし……全部が全部信用に足るとは思いたくないけど。

 何だか、嫌な気分になって。
 そして、俺が辺りを見回すと。

「……んっ? どうかしたのかい、浩之?」

 にこっ。

 びくぅっ!!

「いっ、いやっ! 全くもって問題ないっ!」

 だだだだだっ!

 俺は脱兎の如く駆け出して。
 いつの間にか料理をテーブルに並べている、マルチやあかりの陰に隠れて
みたりするのだった。






<……続きます>
<戻る>