へなちょこセリオものがたり

その80「いつも傍にいて 3」








「さて、それでは浩之さんのお誕生パーティを始めたいと思います〜」

「皆様にはお忙しい中ご出席をいただきまして、誠に感謝いたします。更に
この場を準備してくださった来栖川家の方々には、厚く御礼申し上げます」

 ををう、やっぱり先輩達には迷惑かけっぱなしだなぁ……。

 もぐもぐ、ぱくぱくっ。

「ご両親から祝電が届いてますので、ご紹介させていただきますぅ」

 い、いつの間にそんなものが?

「『おめでとう。死への階段をまた1歩登った私達の息子へ』」

「……むぅ」

 がつがつがつっ、ごきゅごきゅ。

「え……えーと、心暖まる祝電でしたっ! それでは浩之さん、一言どうぞ
お願いしますっ!」

「え、俺?」

 参ったな、いきなりそんなこと言われても。

「浩之さん、コレをどうぞ」

 呼ばれた俺が前に出ると。
 セリオが、マイクと一緒に小さくたたんだ紙片を手渡す。

「おお、さんきゅ」

 さすがはセリオ、急なことで俺が困らないようにと……気が利いてるよな。

「えー、こほん」

 ぱくぱくぱくぱくぱく……。

 咳払いをしながら、みんなに気付かれないように紙片を広げて。
 いざ、ちらっと視線を走らせると……。

 『ぱぱらぷー』

「…………」

 真ん中に、たったそれだけが書かれていた。

「くっくっくっくっ……」

 セリオを見ると、身を屈めて必死に笑いを噛み殺していやがる。
 くそっ、一体何の真似なんだよぉ!

「えーと、今日は俺のコンサートに集まってくれてありがとう。心行くまで
俺の歌声に酔いしれてくれ」

 ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ、ぷはぁ〜。

「ちょっとヒロ! 面白くないわよ!」

「ええい、うるせぇ! 面倒なことは抜きだ、ありがとよみんなっ!」

 ぱちぱちぱち……。

「おめでとう、浩之ちゃん!」

「おめでとう、浩之っ!」

「おめでとうございます、先輩っ!」

「……ありがとう」

 むしゃむしゃむしゃ……。

 って、違う違うっ!
 こう大人数に囲まれて拍手されて『おめでとう』言われると、どうも変な
気分になっちまうぜ。

「というわけでみんな、今日は先輩達のおごりだっ! ぱーっとやってくれ
よなっ!」

「あんたが偉そうに言うことじゃないでしょ……」

 わかってらい、そんなこと。






「…………」

「おめでと、浩之」

「ありがとう、2人とも。誕生日のことは自分でも忘れてたくらいなのに、
まさかこんなに盛大なお祝いしてもらえるなんてな……」

 ったく、嬉しくて涙が出て来そうだぜ。

「いいのよ、どうせ……」

「…………」

 ふるふるっ。

「あ、内緒だったわね」

 な、何を言いかけたんだ?

「…………」

 そ、それは置いといてって……。

「ん、プレゼント? さんきゅ、嬉しいぜ……え? 開けていいの? どれ
どれ……」

 がさがさっ。

「おおっ、これは『謎の棒』! すげぇ、どうやって手に入れたんだよ……
ありがとう、大事にするぜっ!」

 がぶっ、ぎゅぅ〜っ……ぶちっ。

 ちなみに『謎の棒』っていうのは、今巷で大人気の謎アイテムだ。
 どこの店も売り切れで、入手は困難を極めるのだ。

 何たって、謎だしな。
 どこで生産されているのか、いつ店頭に並べられているのか、果ては値段
も使い方も効果も、何で大人気なのかも謎。
 本当にコレが『謎の棒』なのかすら謎だが、これだけ謎めいた色と形して
るんだし……たった今コレは『謎の棒』に決定だ。

「私からは、着せ替えセットよ」

「って……俺を着せ替えするのか?」

「馬鹿ねぇ、マルチとセリオのよ……楽しんでね、ふふっ」

 や、やけに意味深な……楽しみだぜっ!

「浩之の家に届けてあるからね」

 むぅ、いつの間に。

「ありがとな、綾香……2人とも、いつかきっとお礼するぜっ!」

「…………」

「ツケにしておいてあげるってさ……私も一緒にツケといてね」

「おう、了解だ! 出来れば利息も付けてやるぜっ!」

 って、庶民だから大したことは出来ないケド。

 でも、その言葉に2人はくすくすと楽しそうに笑い。
 挨拶回りの為にその場を離れる俺を、手を振って見送ってくれた。






「藤田君、藤田君……うちな、うちな……」

 うぉ、酒臭ぇ。

 いいんちょ、もう酒入ってるし……のっけから飛ばしてるなぁ。
 っていうか誰だよ、酒用意した奴。

 ……あ、シャンパンの瓶が……って、全然量は減ってない。
 傍らに置いてあるグラスの中身が、半分くらい減ったかなって程度で……
酒に弱いのかな、いいんちょ。

「うちな、ずーっと寂しかってん」

「うんうん、気持ちは何となくわかるぜ」

「藤田君に、うちの何がわかるゆーねんっ!」

 うを、怒り上戸なのかよ。

 ごっきゅ、ごっきゅ、ごっきゅ。

「悪ぃ、やっぱわかんねー」

「せやな……藤田君は、うちのことなんか気にせぇへんもんね……」

 ぐすっ……。

 こ、今度は泣き上戸かい。
 何て答えりゃいいんだよ……。

「そんなことないって。いいんちょのこと、いつも気にしてるんだぜ」

「……ほんと?」

「おう、ほんとほんと。俺って、今まで嘘吐いたことないしぃ」

 って、それからして嘘な俺……すでに腐ってるかな(爆)。

「……めっちゃ嬉しいわぁ、藤田君っ!」

 だきっ!

 何故かいきなり俺に抱き着くいいんちょ。

 むにっ……。

 む、胸が……でかい。
 マルチは言うに及ばず……セリオも勝負にならないな、こりゃ。

「ノォ――っ! ヒロユキ、一体ナニしてるネ!」

 ビールの大瓶片手にレミィが走り寄って来て。

 かちゃかちゃ、ぱくっ!

「いや、これは……」

「トモコ、ヒトリジメはノーサンキューっ!」

 だきっ! 

「ワターシも混ぜるよろしっ!」

 酔ってるせいか、いつもより怪しい日本語を口走りながら。

 ぱふんっ☆

 ぐふっ……前から後ろから、でかい……。
 こ、こりゃたまらんっ。

 ……だっ!

「……あっ! 藤田君、どこ行くんやっ!」

「ヒロユキぃ!」

 がつがつがつがつがつっ。

 すまん、2人とも……俺だってずーっとサンドイッチされていたかったが、
何とも痛い視線がびしびし刺さって来ててな……。
 また機会があったら、是非頼むぜ(爆)。

 たたたっ……。

「……あれ?」

 何か、右と左のズボンのポケットが膨らんでる気が……。
 何か入れてたっけ、俺?

 ごそごそ……。

「うをっ」

 両方に、綺麗にパッケージされた細長い箱が。
 心当たりと言えば、たった今の2人。

 そろーっと、今走って来た方向を振り返ってみると。
 くいーっとグラスを傾けているいいんちょと、ビールをラッパ飲みしてる
レミィ。
 2人ともけらけら笑いながら、俺に向かって手を振って。

「……やられた……」

 酔ってるんだか、酔ってないんだか。
 いつの間に……っていうか、いつでも突っ込めたような(爆)。






「……先輩って、女たらしだったんですね」

「ちょっと見損ないました」

 ううっ、そんなこと言われても。
 ……確かに、嫌じゃ……むしろ嬉しかったけど。

「2人とも酔っ払ってたしさ……俺をからかって遊んでるんだよ、きっと」

「酔えば……抱き着いても、おーるおっけー!?」

「葵さん、お酒……飲んじゃいましょうか?」

 2人は顔を見合わせると。

 がしっっ!

「お、おい? それはワインだと思うけど……」

「「いいんですっ!」」

 びくっ。

「ご、ごめん……」

 何か機嫌が悪そうだな……ちょっとほとぼり冷まして来よっ。

 ごく、ごく、ごくっ……。

「ま、また後で来るから……じゃっ」

 すたこらさ〜……っと。






「理緒ちゃん、今日はハイペースだねぇ」

「……むぐっ?」

 ちなみに、さっきから聞こえていた『ぱくぱく』とかの音の主はこの子だ。
 何故かその場にいた全員が止めようとせず、飲み食いしたいようにさせて
いたけど……ううむ、彼女の周りだけ空いた皿が山積みになってるぞ。

 ごきゅ、ごきゅ……ごっくん。

「ぷは。おめでとう、藤田君っ。うち貧乏だから、それらしいプレゼントは
用意出来なかったけど……」

 ごそごそ。

「……はい、プレゼント」

 肩からかけた鞄から、小さ目の布包みを取り出す理緒ちゃん。

「魔除けにしてね」

 ぱくぱくぱく……。

 にこっと笑ってくれたかと思うと、再び牛馬のように食べ出す理緒ちゃん。
 俺はもらった包みを、控えめに開いてみたが……。

「ぶっ!」

「んー?」

 もぐもぐ……ごっくん。

「どうかしたのー?」

「い、いや……すっごい魔除けだね……」

「え? メザシの頭って、そんなに珍しいかなぁ?」

 ……メザシ?

「……理緒ちゃん、きっと包みを間違えてるよ」

 俺は後ろ髪引かれながら、そっとその包みを理緒ちゃんの手に握らせて。
 彼女は不思議そうな顔をしながら、その包みを開いて……。

「……あの、もしかして……見ちゃった?」

「…………」

 こくり。

「ちっ、違うのっ! これはね、学校でお洗濯しようと思って……ああっ、
私ってば何てドジなのぉ〜」

 ごそごそごそっ!

「こっ、こっち! こっちが本当のメザシの頭ねっ! 綺麗に洗って干して
あるから、このまま適当な柱に飾っておけばいいよっ!」

 真っ赤になりながら、さっきのと同じような包みを取り出した理緒ちゃん。
 俺は苦笑しながらそれを受け取って、彼女の頭をなでてみたり。

「慌てなくていいよ、秘密にしとくから……ありがとう」

「……ごめんね(赤っ)」

「……本当のトコ、そっちの方が嬉しいけど」

 俺は、鞄を指差して。
 理緒ちゃんはちょっとの間、思考タイム。

「…………」

 ぼむっ☆

「あっ、あっ……」

 ……面白い子だよなぁ。

「あ、あの……数が少ないからあげられないけど……藤田君が、どうしてもって言うんなら……」

「いっ、いやっ! 冗談だってば! 惜しいのは本当だけど、そんなに大事
なのもらえないって!」

「そ、そう……お気に入りなんだけどな」

 うっ。
 勿体ないことしたかも(爆)。

「あ、そうだ……家で待ってる弟に、余ったお料理もらって行ってもいいの
かな?」

「あ、うん。先輩に頼めば、入れ物ももらえると思うよ」

 まるで無理に話題を変えようとしたみたいだったけど。
 気まずい空気になるのは避けたかったから、俺も合わせることにした。

「うん! 後でお願いしてみるねっ。弟も喜ぶよ」

 にぱっ☆

 ……いい子だよなぁ、本当。

「さて……それじゃ、お腹壊さないようにね」

「まっかせて……食い貯めなら自信があるんだから」

 ぱっくぱくぱくぱっくぱく……。

 ……そのようだ。

「ははは……」

 手の代わりに箸を振ってくれる理緒ちゃん。
 俺も手を振り返しながら、その場を離れた。

 ……やっぱしもらっとけばよかったかな、水玉パンティ。
 まだ洗ってないみたいだったし(爆)。






<……続きます>
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